#1078 Moonrider / Moonrider (1975)
2. Having Someone
3. Our Day's Gonna Come
4. Good Things
5. Livin' on a Main Street
6. Too Early in the Morning
7. Golddigger
8. Danger in the Night
9. Riding for a Fall
10. As Long as It Takes
インディペンデントレーベル (2004/11/10)
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グーグルを利用して日本語で”ムーンライダー”と検索してみる。画面に現れるのは鈴木慶一が1975年に結成した日本の著名なバンド、ムーンライダーズがひっかかる。はちみつぱいというバンドを母体として出来上がったこのムーンライダーズは日本のバンドとはいえ、欧米のモダン・ポップスの影響化にあると思われるサウンドを武器に登場して以降長きに渡り日本の音楽シーンを牽引してきた精神的支柱である。既に結成30周年を越えたバンドだが(1980年代後半の一時期に活動を停止していた)ヒット・ソングを連発してTVの音楽番組に盛んに登場したような表街道バンドではないため、どちらかというと玄人好みのバンドとして位置付けられている。あっといけない、今回はこの超有名なバンドの方ではなく、イギリスで1970年代に僅か1枚のアルバムを発表して消えてしまった短命バンド、ムーンライダー(Moonrider)の方である。暗闇に光るフクロウの目が印象的な銀色のジャケットで知られている。
ムーンライダーの唯一の作品を発売したのはアンカー(Anchor Records)という英国のレーベルで1974年に設立され1978年に閉鎖されるまでの約5年もの間に27枚の作品を手掛けた。同レーベルの記念すべき第一弾作品は元ウォーム・ダストのポール・キャラックを中心としたエースの「










キース・ウェストと共にムーンライダーを支えたギタリストのジョン・ウィーダーはエリック・バードン&アニマルズ、ファミリー、スタッドといったバンドに在籍してきた人。ロジャー・モリス、ニッキー・ジェイムスといった人のアルバムに参加した他、ソロ・アーティストとしても1976年のアンカー作品「John Weider」でソロ・デビュー、1980年代と1990年代にもソロ作品を発表している。ベーシストのブルース・トーマスはピーター・バーデンズ「The Answer」やクイーヴァー、イアン・マシューズ、アル・スチュワート、ブリジット・セント・ジョンといった人達のアルバムに参加してきた人。ムーンライダー以降の1970年代後半にはエルヴィス・コステロのジ・アトラクションズに参加しているので今ではこちらのバンドのメンバーとしてのキャリアの方が多分有名だろう。1978年にはコステロ来日の際にジ・アトラクションズの一員として日本の地を踏んでいる。以上、この4人がムーンライダーを構成していた。




■ Keith West - Lead Vocals, Rhythm & Acoustic Guitar
■ John Weider - Lead & Acoustic Guitar, Vocals
■ Bruce Thomas - Bass
■ Chico Greenwood - Drums
ブリティッシュ・ビート、スィンギング・ロンドン、ブリティッシュ・サイケデリアの時代を生き抜いてきたポップ・カルチャーの申し子の1人キース・ウェストが1970年代も半ばの1975年に発表したのがこのムーンライダー。ヴァーティゴ、ハーヴェスト、ドーンといったレーベル程の知名度こそないものの、アンカーが1970年代半ばから5年もの間に発表した作品群は流行廃りを気にしない音楽愛好家達によって時代を超えて愛され続けてきた。アンカーは残念ながら1970年代の後半から登場したパンク・ロックやニューウェーヴといった新興勢力の前に自らの使命は終えたかの如く音楽シーンから消えてしまったが、日本の復刻系レーベルのエア・メイル・レコーディングスがそんなアンカー・レーベルの諸作品を《ANCHOR RECORDS COLLECTION》の企画で紙ジャケ化してしまった。売れた売れないの価値判断でななく、本当に良い物を商品化しようとする同社の功績はいくら褒めても褒めすぎって事は無かろう。
紙ジャケット仕様限定盤として2004年11月に日本国内で発売されたオリジナル銀紙ジャケットのパッケージ「Moonrider」が今回のネタ元。以前から聴いてみたいと思いながら入手出来ずに長い間地団駄を踏んでいただけに、エア・メイル・レコーディングスによるCD化は大変有難かった。収録は全部で11曲。全てメンバーのオリジナル。内キース・ウェスト単独のペンによる曲が7曲、ジョン・ウィーダーの曲が3曲、2人の共同作品が1曲と、バンドの音楽性の方向付けは2人によってなされている・プロデュースはバンドの首謀者キース・ウェスト。アレンジはメンバーの共同作業。プログレッシヴ・ロックを思わず連想させてしまうようなダークで印象的な「Moonrider」のジャケットとは裏腹に作品の内容はエリック・クラプトンやローリング・ストーンズ、ジョージ・ハリスンらのアメリカン・ルーツへの接近を契機に1970年初頭以降英国でブームとなった、英国人によるアメリカン・ルーツ・サウンドの解釈を具象化したもの。
ブリティッシュ・ビートの骨組みとなったロックンロールやブルースやR&Bは勿論、ゴスペルやカントリー・ミュ-ジック、米トラディショナル・フォーク、ジャグといった米国を発信地とする音楽が好まれて多くの英音楽家の作品に盛り込まれていたのが1970年代の前半。こうしたルーズで大陸的なサウンドはブリティッシュ・スワンプやパブ・ロックといったジャンルを(何れも後付の言葉であるが)生み出していった。本作「Moonrider」もそうした英国内における時代の潮流を背景にした作品だ。スィンギング・ロンドンやブリティッシュ・サイケデリアの時代に旬の空気を読んで「A Teenage Opera」やトゥモロウ「Tomorrow」といったアルバム制作に関与してきたキース・ウェストならではの作品と言えるが、タイムリーであったかと言えば少々疑問府が付く。1975年と言えばアメリカン・ルーツの再発見という時代ではなく、時はAOR(アダルト・オリエンテッド・ロック)の時代に入ろうかという時代であった。
英国人におけるアメリカン・ルーツ・サウンドへの接近という観点から見れば少々時期外れの作品であると言えるが、ボズ・スキャッグス、ボビー・コールドウェル、クリストファー・クロスといった人達がメロウで心地良い音楽を武器に一世を風靡する時代に先駆けてAOR風のサウンドを展開したと思えば本作の価値は決して低くない。ムーンライダーは基本的には米ルーツ・サウンドをベースとしたスワンプ風味のパブ・ロック・バンドと解釈するのが近道かもしれないが、こうした説明はアルバムを聴かぬ人に誤ったイメージを与える可能性もある。パブの代名詞であるビールとタバコ(注;英国では法改正により2007年夏からパブを含めた公共施設で全面喫煙となる)はムーンライダーには似合わない。初期イーグルスを彷彿とさせるキース・ウェスト作によるカントリー・ロック・ナンバー「Having Someone」は不健康なパブ・バーよりも家族皆での晴天な中でのピクニックのBGMとしての方が似つかわしい程だ。
ウェスト&ウィーダーの共作による「Our Day's Gonna Come」もメロウなAOR風ポップ。誰が演奏しているのかクレジットされていないので判らないが、メロウなキーボード演奏は骨太なロック・ミュージックのイメージとは可也かけ離れたもの。「Good Things」はダークなジャケの印象を信じて購入した人なら多分叩き付けたくなる様なポップなカントリー・チューン。「Too Early in the Morning」に至ってはジャズに接近している。この曲から誰もが連想するのはズバリ、スティーリー・ダン。「Golddigger」は本作ではむしろ珍しいブルースをベースとした軽快なロック・ナンバーで恐らく本作で最も従来のブリティッシュ・ロックのイメージに沿ったもの。米南部をルーツとした英スワンプ・ロックと書くと泥臭いレイドバックしたイメージが常につきまとう。本作にはこうした先入観は無用だが、暗闇に光るフクロウのジャケが作品の内容と全くリンクしていないので、第一印象として誤った先入観を抱かせる可能性大。
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