(UK)Godley & Creme / Goodbye Blue Sky (1988)
1.ヘヴン~ア・リトル・ピース・オブ・ヘヴン
2.ドント・セット・ファイアー
3.ゴールデン・リング
4.罪と罰
5.ビッグ・バン
6.10000人の天使
7.スウィート・メモリー
8.エア・フォース・ワン
9.ラスト・ページ・オブ・ヒストリー
10.絶望の時
11.ア・リトル・ピース・オブ・ヘヴン(エクステンデッド・ミックス)
12.ビッツ・オブ・ブルー・スカイ
13.ヒドゥン・ハートビート
14.ライノウ・ライノウ
15.キャント・スリープ
後期ビートルズの遺伝子を引き継いで1970年代から1980年代にかけて当時の音楽シーンで活躍したイギリスのプログレッシヴなポップ・ロック・バンド、10cc。オリジナル・メンバーはグレアム・グールドマン、エリック・スチュワート、ロル・クレーム、ケヴィン・ゴドレイの4人。結成以前から音楽シーンに身を置いていた4人によって1972年に活動を開始した10ccは1976年にロル・クレームとケヴィン・ゴドレイが脱退するまでの間に素晴らしい作品を連発して業界筋や玄人筋から高い評価を獲得したものだった。バンドがエリック・スチュワート&グレアム・グールドマン、ロル・クレーム&ケヴィン・ゴドレイに分かれてからも共に両者は活動を継続、ブリティッシュ・ポップ・ファンを満足させる作品を提供し続けることになる。
乱暴な言い方かもしれないが、エリック・スチュワート&グレアム・グールドマンがバンドのメロディアスな部分を、ロル・クレーム&ケヴィン・ゴドレイがバンドのプログレッシヴな部分を担当してバンド内部でおおまかな住み分けが出来ていたのが10cc。1976年の脱退は当時彼等のファンでもあった私にとってもショッキングな出来事であったが、両者が今後どんな作品を発表するのかは当時のファンとしては楽しみでもあった。だが先に勢いを失ったのはエリック・スチュワート&グレアム・グールドマンによる本家10ccの方。分裂直後の「Deceptive Bends」(1977年)は素晴らしい作品でもあったが、個人的な趣味の問題もあろうかと思うが10ccは「Bloody Tourists」(1978年)を境にかつての後光は消えうせてしまったと思う。1980年代以降の10ccのAOR路線の作品も当時の私にはピンとこなかった。
一方、離脱したロル・クレーム&ケヴィン・ゴドレイの方は(当時私はこちらの支持派だった)1977年に「Consequences」という、途方もない実験的なコンセプト作品を発表する。豪華カートンボックスに包まれたレコードは当時私も購入したが、10ccの芸術部門を担当していた2人の実力どうりの力作に微笑むも、実際この作品をどう評価していいものかどうか、悩む部分もあった事も事実であった。彼等が脱退した理由の一つに2人が開発したギターアタッチメント、"ギズモ"の効果をアルバムで披露してみたいというのがあったから、「Consequences」発表でとりあえず2人の溜飲は下がる事になる。この後2人は10cc譲りのプログレッシヴなポップ・サウンドを看板に活動を継続することになる。だから1978年以降、事実上10ccの精神はゴドレイ&クレームに引き継がれたといっても過言ではない。
2人のコンビによる作品は以下の通り。「Consequences」「L」「Music From Consequences」「Freeze Frame」「Ismism」「Birds Of Prey」「The History Mix Volume 1」「Goodbye Blue Sky」。最後の作品「Goodbye Blue Sky」が発表されたのが1988年だから、かれこれもう18年も新作がご無沙汰の状態となっている。1980年代以降に巻き起こったMTVを代表とするプロモ(PV)ブームの隆盛によって彼等の働き口が増えてしまった事が結果的に音楽家としてのゴドレイ&クレームの活動が停滞してしまったのだ。音楽シーンの移り変わりの中の出来事とはいえ、かつて10ccやゴドレイ&クレームの新作を聴くのが楽しみだった輩にとっては大変残念な結末。その後「Mirror Mirror」という復活作品が発表されたり、元メンバーがソロ作品を発表したり、インターネットでダウンロード販売を開始したというニュースが伝えられたりもするのだが、4人が完全に揃ってかつての「The Original Soundtrack」「How Dare You!」のような作品を発表する時代は恐らくもうこないだろう。
今回紹介する「Goodbye Blue Sky」は1988年に発表された、目下のところゴドレイ&クレームの最新作。18年も前の作品を”最新作”と呼ばなくてはならない状況は大変残念なのだが、これが現実なのだから仕方がない。彼等は1980年頃からPVの業界に手を染める事になり、デュラン・デュラン、ポリス、ハービー・ハンコック、フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドといったアーティストの曲のPVを手掛ける頃には彼等のビデオ・アートに対する力量は業界人の知られる所となった。こんな状況を背景に彼等は1980年代半ばに映像プロダクションを設立して映像作品の分野にも転出してしまう。とても音楽どころではない。「Birds Of Prey」から「Goodbye Blue Sky」まで5年、さらに「Goodbye Blue Sky」以降は音楽作品すら制作していたいのも音楽活動だけに専念出来ないという止ん事無い事情があるようである。
「Goodbye Blue Sky」は1988年にポリドールから発表された作品。ジャケットから判る通り、本作はハーモニカの音色を中心に添えた意欲的な作品。1980年代サウンドの主流である打ち込み音楽の真っ只中に身を置いていた状況を脱して、音楽家として原点に戻ろうとアコースティックな作品を作る事を決意、その中心となったのがハーモニカであった。10cc時代からゴドレイ&クレーム時代まで、可能な限り最先端技術を駆使して複雑な音楽を構築してきた2人が最後に発表したのが原点回帰ともいえるルーツ志向の作品だった。録音はケヴィン・ゴドレイ所有のスタジオで行われ、演奏陣は主に2人。作品のコンセプトを実現するために2人のハーモニカ奏者、そして3人のバックコーラスが雇われて録音に参加している。
10cc、ゴドレイ&クレーム、いずれの時代の作品もブリティッシュ・ポップの世界でしか有り得ない癖のある捻くれたパラレル・ワールドを展開してきたが、本作はそれまでの作品を期待するブリティッシュ・ロック・ファンを仰天させる作風となっているのだ。アコースティック・サウンドを追求した結果、ゴスペル、カントリー、ブルース、バラード、ドゥーワップ調の音楽を主流とした、極めてアメリカン・ルーツ色の強い作品として仕上がった。だが、それだけで終わらないのがゴドレイ&クレームの面目躍如たるところ。ゴドレイ&クレーム流アメリカン・ルーツの再現に比重をおきながらも、随所随所でこれまでの音楽人生の中で培った編集能力が隠し味として使われているのが興味深い。
もう一つ、アメリカン・ルーツを取り入れながらも、作品のもう一つのコンセプトである”核戦争後の世界”というテーマに沿った暗く宗教的な面をも見せてくれる。音楽的にはアメリカン・ルーツに敬意を表しながらも、大統領専用機”エア・フォース・ワン”を皮肉った歌詞など、アメリカの政治や体制などに対する皮肉がさりげなく盛り込まれている当りは流石ゴドレイ&クレームといっていい。表面的なルーツ色にごまかされるとしっぺ返しを食らう作品と言えるかもしれない。ゴドレイ&クレームの作品の中で最初に買うべき作品であるとは言わないが、最後には必ず本作まで手を出してもらいたい。
YouTube - Godley & Creme / An Englishman In New York (1979)
YouTube - Godley & Creme / Wide Boy (1980)
YouTube - Godley & Creme / Wedding Bells (1981)
YouTube - Godley & Creme / Cry (1985)
YouTube - Creme, Godley, Rick Wakeman, etc / In the midnight hour
YouTube - The Police / Synchronicity II (1983)
YouTube - The Police / Every Breath You Take (1983)
YouTube - Thompson Twins / Don't Mess With Doctor Dream
YouTube - Wax U.K. / Right Between The Eyes
YouTube - Wang Chung / Everybody have fun tonight (1986)





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