#1118 Oxfords / Flying Up Through the Sky (1970)
02. Lighter Than Air
03. Sung at Harvest Time
04. Two Poems by E.E. Cummings
05. Flying Up Through the Sky
06. Come on 'Round
07. Young Girl's Lament
08. Trix Rabbit
09. (There's) Always Something There to Remind Me (Bonus Track)
10. Time and Place (Bonus Track)
11. Sun Flower Sun (Bonus Track)
12. Chicago Woman (Bonus Track)
13. Come on Back to Beer (Bonus Track)
14. Your Own Way (Bonus Track)
15. The City (Bonus Track)
16. Flute Thing (Bonus Track)
17. Cuttin' You Loose (Bonus Track)
18. Sweet Lover Man (Bonus Track)
19. Those Winds (Bonus Track)
20. Tornado Baby (Bonus Track)
OXFORDS
夢街名曲堂
価格:¥ 2,625
平均評価:評価なし
納期:通常3~5日以内に発送
時代は1964年から始まった。ビートルズが初めて米国に上陸したこの年の春にイギリス出身のマージー・ビート・バンドであるビートルズがシングルのヒット・チャートの上位5位までを独占してしまうという、音楽史に残る”事件”が発生した。この年をピークにイギリスから海を越えて多くのバンドがアメリカに上陸、彼らが持ち込んだ音楽がアメリカの音楽を変えてしまったことから、この当時の現象を今ではブリティッシュ・インヴェイジョン(British Invasion)と呼んでいる。エド・サリヴァン・ショーに出演したビートルズの演奏を聴いて奮い立ち、最終的にラヴィン・スプーンフル結成に至ったジョン・セバスチャンの例を引き合いに出すまでもなく、当時多くの米国の若者がビートルズを始めとするブリティッシュ・ビート勢の音楽に魅せられて音楽活動を開始した事は想像に難くない。今回取り上げるバンド、オックスフォーズの中心メンバーも最初はビートルズの音楽に魅せられて音楽の道に足を突っ込むことになったのだという。
さて、バンドの歴史は1964年のケンタッキー州ルイビルまで遡る。オックスフォーズの母体となるバンドは当時ビートルズのようなビート・バンドの好きな高校生の若者達によって結成されたアマチュア・バンド。後にオックスフォーズの中心メンバーとなるジェイ・ぺタック(Jay Petach)が参加していたスペクターズ(Spectres)というバンドは同じく同時期に活動していたドラマーのジム・ゲストを新たに迎え入れ、1965年から正式にオックスフォーズと名乗っている。ギタリストやベーシストの交代もあったが1966年にプロとして初めてシングルを録音する機会を得た。1964年の時点で高校2年生だったのだから、チャンスとしては早い方だろう。最初のシングルはバート・バカラック/ハル・デイヴィッド作「(There's) Always Something There to Remind Me」。B面曲「Time and Place」はジェイ他、当時オックスフォーズのメンバーだったジム・ゲスト、ビル・テュリスの共作曲。ナッシュヴィルで録音された本曲は当時ベル・レコードから発売された。
今聴くとかなり荒削りな演奏だがビートルズのようなビート・バンドのエキスを閉じ込めたサウンドはメンバーの大半が当時10代だった事を差し引けば結構いける。「Sun Flower Sun / Chicago Woman」は1967年に発表された第二弾シングルでメンバーのオリジナル作品。時代相当というか、ドリーミーでサイケデリックな曲調のA面曲は隠れたサイケの佳作といってもいいと思うが当時は然程評価されずに終わっている。1967年から1968年にかけてもメンバーが交代しているが、女性ヴォーカリストのジル・ディマルコも当時バンドに参加した1人。彼女はナッシュヴィルで活動していた女性のみのバンドの一員で彼女達のシングルをオックスフォーズが手助けした事から、この女性バンドが解散した後にジルがバンドに参加する事になったらしい。フランク・ザッパやグレイトフル・デッドのオープニング・アクトを務めるなどの仕事をこなした1968年、彼等はのちに最初のアルバムとして発表される作品の収録に取り掛かる。
1969年のシングル「Come on Back to Beer / Your Own Way」発表を経て、1970年にようやく最初のアルバム「Flying Up Through the Sky」が完成した。1968年から1969年にかけてナッシュヴィルのスタジオで録音したテイクを中心に収録したものだが、正式にレコード会社と契約を結ぶ道をとらずに彼等は自主制作の道を採っている。バンドはミュージカルのバック・バンドの演奏を担当する仕事をこなした後、新曲「The City」の録音にとりかかるが、正式に発売されることなく当時はお蔵入りとなってしまった。スター街道に乗る気配もないマイナーなバンドの活動に嫌気がさしたのか、1972年にもなるとジェイとジルを除く3人のメンバーが相次いで脱退してしまう。それでも2人は新メンバーを迎え入れて活動を継続、同年にジェイの友人が開いたというスタジオで新曲を数曲吹き込むが、当時既にジェイの興味はアーティスト活動よりもスタジオでの録音作業に向いていた。オックスフォーズとしての活動は1973年を超える事はなかったのである。
■ Jay Petach - Guitar, Vibes, Keyboards, Vocals
■ Jill Demarco - Guitar, Kalimba, Percussion, Vocals
■ Larry Holt - Bass, Harmonica, Vocals
■ Paul Hoerni - Drums, Percussion
■ Dill Asher - Bass
■ Donnie Hale - Drums
■ Jim Guest - Drums
■ Keith Spring - Horns and Strings Arranged & Conducted
さて、「Flying Up Through The Sky」は1970年に発表された、オックスフォーズ名義の唯一の作品。レアもレア、オリジナルがレコード会社を通さずに自主制作盤なのだから非常に貴重なアルバムだ。かねてからポップス愛好家が探していた逸品だったようだ。海外では2001年に Gear Fab から初めてCD化され、ここ日本でも夢街名曲堂を通じて紙ジャケット仕様にて発売された。但し盤は直輸入盤をそのまま使用。結成から解散まで、ただ1人オックスフォーズの歴史に携わったギタリストのジェイ・ぺタック自身による解説が非常に親切。1960年代当時のレアなオックスフォーズの写真が満載された24ページにも渡るブックレットも付いている。私は中古CDショップで中古品を購入したので新品が現在入手出来るのは判らないが、夢街名曲堂レーベルの母体 Dreamsville Record で入手可能なようだから興味のある方はそちらに問い合わせてみるのも良いでしょう。ちなみに海外盤・輸入盤共にディスクは Gear Fab 製だから収録曲に差はないと思う。
本作には20曲が収録されているが、実際のオリジナルは1~8までの8曲。9~14までの6曲が3枚のシングルの両面を残さず収録したもので、15~20の6曲が1972年にジェイの友人ダニー・キング氏所有によるスタジオにて収録された未発表曲となっている。計20曲。これ1枚でオックスフォーズの1966年から1972年までの歴史が網羅出来る内容となっているからオックスフォーズのベスト盤的な意味合いで解釈することも可能だ。私はこのCDを1000円程度の中古価格(実際には未開封だった)で購入したのだが、なんとなく興味を惹くジャケットだったから、というのが購入の主たる理由で聴く前は然程期待もしていなかったのだが、購入後は期待を大きく上回る内容に大変驚いた。自主制作盤だから、録音も曲もショボイものだろう、と早合点するのは大きな問題。ソフト・ロック/サンシャイン・ポップ/ドリーミー・サイケの裏名盤といってもい程のレベルの濃い内容なのである。これが2001年までCD化されていなかった事はソフト・ロック史に残る大きな損失だったといってもいい。
まずはオリジル作品収録曲である1~8から触れてみたい。オリジナル・マスターは既に消失したとの事で残念ながら本作は盤起しとライナーに書いてあるが、そんな事は記述を見るまで気がつかなかった程の音質の素晴らしさ確かさである事にまずは触れてから個別の曲に触れてみる。「My World」はジェイ&ジルの2人のペンによる曲。1968年当時、一時的にバンドの活動に参加していたキース・スプリングのピアノとフルート、オケの指揮が大きくフューチャーされたカラフルなサンシャイン・バロック・ポップ。自主制作盤の冒頭曲としては余りにレベルの高い根明な逸品。「Lighter Than Air」も2人によって作られた曲でここでもキースのオケが大活躍。オックスフォーズの歌と演奏、オケの分離が明確で1968年に録音されたとはにわかに信じがたい(しかも盤起し)ハイ・レベルな品質。作曲家としてだけでなく録音テクニックにも秀でた視点を当時から兼ね備えていたジェイ・ぺタックならではの仕事といえよう。
「Sung At Harvest Time」はオリジナルではなくケチュア族に昔から伝わる伝承音楽のカバーらしい。力強いジルの歌、感傷的なジェイのフルート、先住民の深い歴史を連想させるような厳かなキースのオケが三位一体、見事なまでに融合した名演奏だ。「Two Poems」はキースがオックスフォーズに提供した曲。1960年代の音楽シーンを紐解く鍵になるジャズ、サイケデリック、東洋音楽のエキスが混在した極めてユニークなプログレッシヴな曲。ジェスロ・タル風のフルート演奏も眩しいが、曲の提供者であるキース・スプリングからの影響が大なのか、ジャズ、それも可也サイケがかった演奏とアレンジが堪能出来る作品だ。タイトル・ソング「Flying Up Through The Sky」はソフト・ロック/サンシャイン・ポップの代名詞に相応しいドリーミーなポップ・ソング。本人曰く、フィフス・ディメンションに影響されて作った曲とのこと。「Come On 'Round」はキースが去った後の1969年に録音された曲でキースが去った為か、オケ無し。
ロック・バンドとしての原点に戻ったような元気な演奏だが、ジェイのフルートやヴァイヴ演奏が加味されるなど、相変わらず雰囲気抜群。更に1969年からバンドに参加した新ドラマーのポール・ホーニィの手数の多いドラム捌きは圧巻。「Young Girl's Lament」は作者不詳の曲にジルが新たに手を加えたもの。オリジナルがどんな曲なのは知らないが、ジルはオリジナルに手を加えてハイテンポなロックンロール・ナンバーへと仕上げている。最終曲「Trix Rabbit」はママス&パパスの世界にも通じるフォーキーでドリーミーな佳曲。ビートルズを連想させるフレンチ・ホルンの導入など相変わらず細かいアレンジに抜かりはない。と、ここまでが「Flying Up Through the Sky」オリジナル収録8曲。芸の細かいジェイの手腕、歌手としてだけでなく作曲面でも大きな貢献を果たした途中参加の女性歌手ジル、1968年当時バンドの活動に関わっていたキース、以上3人の存在感を非常に大きく感じた作品。
本作に収録されているボーナス・トラックにも簡単に触れておく。1966年、1967年、1969年の3枚のシングル計6曲は何れも発表当時の音楽界の世相・流行を反映した作風。ジェイの憧れたビートルズ、サイケデリック、ガレージ/フリークビート、フラワー、グッド・タイム・ミュージック等々。僅か6曲だが流行や時代背景を反映しなくてはならないシングルならではの発表当時の景色が透けて見える。15曲目から20曲目からの6曲が当時未発表に終わった幻の音源。「The City」のみ暫定的に5年構成となった1970年の録音で残りが1972年の録音。「Flying Up Through the Sky」のオリジナル収録曲とは異なり、かなりジャズ・ロックに接近した作風(当時のベーシストはオーケストラ在籍経験者でドラムはジャズ・シーンからの転身。ギタリストも素はジャズだったようだ)。アフィニティを思わせるジル提供曲がなど実に興味深い。彼女にオックスフォーズ解散後もソロ活動を続けて欲しかったと今にして思う。
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