#1120 Buddy Miles / Them Changes (1970)
2. I Still Love You, Anyway
3. Heart's Delight
4. Dreams
5. Down by the River
6. Memphis Train
7. Paul B. Allen, Omaha, Nebraska
8. Your Feeling Is Mine
Um3 (2003/05/19)
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エクスペリエンス名義で4枚(内1枚はシングル中心のベスト・アルバム)、バンド・オブ・ジプシーズ名義のライヴ盤が1枚、計5枚。デビューから4年程の間に発表した作品は僅か5枚程だが、生前に音楽界に残した足跡は余りにも大きく、今では”史上最高のロック・ギタリスト”の名声が確立したとの声も高いギタリスト、ジミ・ヘンドリックス。最早語るのもおこがましいロック史上最高のスーパーなギタリスト。私が洋楽を本格的に聴く前にジミ・ヘンドリックスのギター演奏の場面を見る機会があって、そのシーンではジミがギターを破壊したり、曲芸紛いの演奏を披露したり、アドリブを効かせた冗長な場面が流れたりと、兎に角度肝を抜かれた事を子供心によく覚えている。しかし、こうしたパフォーマンスのお陰で子供時代の私はロック・ギタリストが嫌いになった。幼少時代から目立ちたがり屋の人間が大嫌いだった私はジミの過激なステージ・パフォーマンスを見て、ロック・ギタリストの所謂ステレオ・タイプを自分でインプリントしてしまったのだ。
さて、ジミ・ヘンドリックスであるが彼は生きている間に5枚のアルバムを発表したと上で触れたが、その内の1つ、「Band of Gypsys」は無名時代にジミが契約したレーベルとの権利問題上やむなく発表された作品で、スタジオ作品ではなくライブ盤。収録されたのは1969年12月の大晦日から1970年の元旦にかけて、ニューヨークのフィルモア・イーストで行われたデビュー・コンサートから抜粋されたもの。今では2枚組ライヴ盤が登場しているが、当時はこの1枚物のライヴ盤が貴重な作品として重宝がられ、チャート的にも成功を収めている。メンバーであるが、ギターは勿論ジミ・ヘンドリックス、ベースはエクスペリエンス解散後のジプシー・サンズ&レインボウズにも参加していた軍隊時代からの友人ビリー・コックス、そしてドラマーはバディ・マイルスという男であった。エクスペリエンスは黒人のジミに英白人の2名という構成であったが、このバンド・オブ・ジプシーズは黒人音楽の新たな方向性を見出そうとしていたジミには待望の黒人だけのバンドだったのである。
このバンドは1967年6月に3日間に渡って行なわれたモンタレー・ポップ・フェスティバルに出場している。彼等の出番は2日目だったが、このイベントでジミとバディは知り合う事となる。この出会いが元で翌1968年6月にニューヨークで行われた「


1969年のバディ・マイルズ・エクスプレスの2作目の作品「Electric Church」にジミがプロデューサーとして参加するなど交友を深めていた両者が合体したのがバンド・オブ・ジプシーズだ。上記のようにバンドは1969年-1970年のコンサートでお披露目、更にPPXレコードとの契約問題からスタジオ録音による作品が制作される筈だったのだが、ジミの不調により制作は捗らず、仕方なくレコード会社側はライブ音源から抜粋して「






■ Buddy Miles - Drums, Bass, Guitar, Arranger, Keyboards, Vocals, Background Vocals
※ Guitar - Charlie Karp, Jim McCarty, Marlo Henderson, Wally Rossunolo
※ Bass - Roland Robinson, Billy Cox, David Hull
※ Keyboard - Duane Hitchings, Dwayne Hutchings, Bob Parkins, Phil Wood, Bob Hogins, Andre Lewis, Robin McBride
※ Electric Harpsichord - Robin McBride
※ Trumpet - Teddy Blandin, Peter Carter, Tom Hall
※ Sax - Lee Allen, Robert Pittman, James Tatum, Mark Williams, Toby Wynn
※ Flugelhorn - Phil Wood
※ Trombone - Bob Hogins
※ Clavinet - Andre Lewis
※ Soloist - Charlie Karp, Bob Hogins, Andre Lewis
※ Background Vocals - Charlie Karp, Marlo Henderson, Fred Allen, David Hull, Bob Hogins, Mark Williams, Phil Wood, Andre Lewis, Robin McBride
※ Harmony Vocals - Andre Lewis
エレクトリック・フラッグ解散後にバディ・マイルズが結成したバンドの名前はジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスを大いに意識したと思われるバディ・マイルズ・エクスプレス。バディは10人近い多人数のプロジェクトを率いて1968年に最初のアルバム「Expressway to Your Skull」を発表、翌1969年にはジミの「Electric Ladyland」やシカゴ・ブルースの巨人マディ・ウォータース「Fathers and Sons」への参加劇を経て通算2作目となる「Electric Church」をマーキュリーから発表している。この後エクスプレスを解散させたバディはジミ、ビリーと合体して黒人だけの構成によるバンド・オブ・ジプシーズを結成したのだが上で触れたように、1枚のスタジオ作品を残す事もなくバンドは崩壊してしまった。ジミ側と袂を分かつ形となったバディは再び自身のソロ活動にまい進することになる。そうして制作されたのがバディ・マイルズ単独名義としては最初の「Them Changes」(1970年)である。
僅かな期間とはいえ、天下のジミ・ヘンドリックスと一緒に活動していた事がバディの知名度アップに貢献したのか「Them Changes」はポップ・チャート最高35位という好成績を残すことになった。また、ハモンド・オルガンのモンドな響きが受けたのか、ジャズ・チャートではなんと最高8位、そしてブラック・チャートでも最高14位を記録するなど、バディ一世一代の人気ヒット作品となったのである。続く「We've Got to Live Together」「Buddy Miles Live」「A Message to the People」でも同様のヒットを残して人気ドラマーとなったバディは、この後カルロス・サンタナとステージで共演、この演奏の模様は「Carlos Santana & Buddy Miles! Live!」として発表され、これもまた成功を収めた事はロック・ファンなら先刻ご承知の通り。この後もバディは移籍先のコロンビアで「Booger Bear」「Chapter VII」といった成功作を発表するが、彼の成功物語は一旦ここまで。この後私生活でトラブルがあり、10年程音楽シーンから離れてしまうが、1986年にエンタテインメントの世界で戻っている。近年の話題としてはビリー・コックスと驚きのバンド・オブ・ジプシーズ再結成という話題もある。
「Them Changes」はソロ名義とはいっても、上の参加メンバーを見れば判る通り、大勢の演奏家がバディの為に集結してちょっとしたビック・バンド風情のユニットとなっており、事実上バディ・マイルズ・エクスプレスの作品と解釈しても問題はなかろう。近年再評価の著しいバディ・マイルズであるが、本作にジミ・ヘンドリックスの一般的なイメージを追い求めるのは間違い。バンド・オブ・ジプシーズ結成以前に参加していたエレクトリック・フラッグはブラッド・スウェット&ティアーズやシカゴの先駆け的存在として評価されているし、その後のバディ・マイルズ・エクスプレスでもトランペット、サックス(バリトン、ソプラノ、テナー)、フリューゲルホルンなどを導入したファンク・サウンドを展開するなど、基本的にバディ・マイルズはブラス入りのファンク・ロックを展開する人なのである。また、少年時代における父親の影響でジャズの素養もある。こんな事を書いているとジミ・ヘンドリックスがバディに声をかけた理由がなんとなく見えてくる。
さて、「Them Changes」は全8曲。バディ・マイルズのオリジナル曲と他のアーティストのカバー・ソングが巧い具合に配置されているのが特徴だ。冒頭の曲「Them Changes」はバディ提供曲。ブラス・サウンド入りの豪快なファンク・ロック。手数の多い技巧派ドラマーの場合だと時に対ギター、対ベース、場合によっては対ドラムといったバトルを展開する人もいるのだが、バディ・マイルズはドラムを叩きながら歌も唄う人なのでドラマー1人が暴走するようなスタイルを採ることはない。ファンク・ミュージックのお好きな方にも安心してお勧め出来る。曲間のファズの効いたギターは誰もがジミ・ヘンドリックスを連想するであろう。これもファン・サービスの一環だろうか。「I Still Love You, Anyway」はギタリストとして本作に参加したチャーリー・カープの曲。アコースティック・ギターを中心にしたバラード・ナンバーで”ウッドストック”の名残り香を感じさせる郷愁を感じさせる感じがいい。見た目怖い印象のバディだが歌はデリケートでメロウ。
「Heart's Delight」はバディの曲。管楽器入りロック・サウンドの先駆者の1人として活動していた人らしいテンポのいいブラス・ファンク・ロックである。「Dreams」はオールマン・ブラザースの曲。1969年にデビューしたばかりの新人バンドの才能をいち早く感じ取って翌1970年にカバーする当りは流石である。アメリカ南部のアーシーな音楽を前面に押し出したサザン・ロック・サウンドのベースに黒人音楽の息吹を感じ取ったのであろう。「Down by the River」はニール・ヤングが1969年の作品「Everybody Knows This Is Nowhere」で披露した曲。黒人のバディが白人のニールの曲をカバーするとは以外だが、ジャズの素養を持ち合わせているドラマーらしく、ニール・ヤングの曲をアダルトな印象たっぷりのジャジーなアレンジを用いて料理してしまった。「Memphis Train」「Your Feeling Is Mine」はルーファス・トーマス、オーティス・レディングの曲。ブラス・ファンク・ロックの人とすれば、こうした曲の調理はお手の物。
「Paul B. Allen, Omaha, Nebraska」は本作中唯一のインストゥルメンタル・ナンバー。バディのドラム、アンドレ・ルイスのハモンド・オルガン、マーロ・ヘンダーソンのギターのみ。歌を披露せずにドラミングに集中しているせいかのか、歌中心の本作の中にあっては異色なイメージを与えるナンバーで「Them Changes」中、最もジャズに接近したアレンジ。ハモンド・オルガンやギターもロック・サウンドからの影響というよりは、ジミー・スミスやウェス・モンゴメリー当りのジャズ・ミュージックからの影響が大と書いて締めておく。バディ・マイルズの過去の旧作は本作やベスト・アルバム、近年ソニー・ミュージック・エンターテイメントから紙ジャケ化された「All the Faces of Buddy Miles」が入手可能な位で他の旧作は日本ではなかなか入手出来ない。バディ・マイルズ・エクスプレスのデビュー作はサイト・オンリーで商品化され、一部のショップで入手可能だが、1枚物としては可也の高価格。今後のCD化を期待しています。




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