#1121 Sundance / Sundance (1981?)
02. Take Your Time
03. What's Love?
04. Heart To Beat
05. A Good Old Song
06. Walk Right In
07. What's It Doing To You And Me?
08. Never Going Back/Silver Threads And Golden Needles
09. So Sad
10. Cottonfields (Bonus Track)
11. Dream Lover (Bonus Track)
12. Those Were The Days (Bonus Track)
13. Island Of Dreams (Bonus Track)
Angel Air (2003/08/11)
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メリー・ホプキン(Mary Hopkin)関連の珍しい作品を偶然入手した。都内に上京中、某輸入CDショップの中古取り扱いのコーナーで本当に偶然に購入したのだが、元アップル・レコードの歌姫メリー・ホプキンが1980年代に残した貴重な作品のCD。タイトルは「Sundance」。これはメリー・ホプキンを中心とした女性1人男性2人によるハーモニーを中心としたポップ・トリオでバンド名はサンダンス(Sundance)。このバンドは元スプリングフィールズのマイク・ハーストを中心としたバンドで、ジェフ・リン率いるELOとアバを足したようなサウンドが真骨頂のようだが、肝心の音楽はかなりというか相当安っぽい。ポップな歌とアレンジを強いるポール・マッカートニーに「NO!」と言ってトラディショナルなフォーク・スタイルに方針転換した過去を持つ女性の割りは節操がないぞ、と思わず言ってしまいたいようなサウンドである。
知らない人の為に書くとメリー・ホプキンは1950年、ウェールズ出身のフォーク歌手。ビートルズのポール・マッカートニーに見出されてアップル・レコードと契約したシンデレラ(ポールに彼女の存在を教えたのはツイッギー)。ポールのプロデュースによる「悲しき天使(Those Were the Days)」(1968年)が英米は勿論、世界的な大ヒットを記録して一躍時の人となる。ポールの曲による第二弾シングル「グッドバイ」もヒットを記録するが、アップル・レコード、特にプロデューサーのポール・マッカートニーの甘口ポップ方針に嫌気がさして彼女本来の持ち味であるトラディショナル・フォーク・スタイルに方針転換を図るが、2作目の「Earth Song Ocean song」(1971年)を最後にアップルを抜けてからは音楽シーンの表舞台から消えてしまった。アップルからは1972年に彼女のベスト・アルバムが発表されるが、公式にはこれが彼女の最後の作品となっている。
さて、メリー・ホプキンは1972年から1973年にかけて Regal Zonophone からフォーク・シングル「Mary Had A Baby / The Cherry Tree Carol」を発表したり(日本でも「いとしのベビー/チェリー・トゥリー・キャロル」のタイトルで1973年に発売されている)、また、Bell record からも「Summertime Summertime / Sweet And Low」(変名でのリリースらしい)というシングルを発表しているが、この後1976年までソロ歌手としては音楽活動を自粛してしまった。恐らく1972年に出産した第一子の育児に追われてレコーディングを行う事が出来なかったのだろう(この間、メリー・ホプキンはトニー・ヴィスコンティ夫人=メリー・ヴィスコンティの名前で幾つかのセッションに参加)。1976年になると再び音楽活動を開始。「If You Love Me / Tell Me Now」「Wrap Me In Your Arms / Just A Dreamer」といったシングルを夫ヴィスコンティのレーベル、Good Earth から発表している。この時点ではまだ彼女はフォーク歌手。


■ Mary Hopkin
■ Mike Hurst
■ Michael d'Albuquerque
■ Ray Fenwick - Guitar
■ Steve Price - Bass
■ Steve Dimitri - Drums
話を続ける。1976年に夫のレーベルを経由してシングルを発表するという音楽活動を開始した彼女に、かつての彼女の清楚な歌が忘れられなかったのか、スティーリー・スパンのメンバーやバート・ヤンシュ(ヤンシュと一緒に Cambridge Folk Festival に出演)から声が掛かって一緒に仕事をこなすという活動を展開したのも1970年代の後半。1979年にはデッカがかつての彼女の曲を集めた「The Welsh World of Mary Hopkin」というコンピ盤を発表している(アップルとの契約以前に彼女が契約を結んでいた地元ウエールズのCambrian Record の音源を中心としたもの)。ここまでが1970年代。1980年代に入って彼女絡みの作品が音楽ファンに届けられるが、それはかつての彼女のイメージとは全く不似合いな商業ポップ・サウンド。仕掛け人はマイク・ハースト。それにエレクトリック・ライト・オーケストラの初期メンバーだった Michael d'Albuquerque も参加した。
メリー他、男女3人をフロントとして、他にサポート・メンバーとしてギタリスト、ベーシスト、ドラマーが加わった構成で立ち上がったのがサンダンスというバンドである。当時確かにこのようなグループが沢山立ち上がる土壌はあった。アバの成功である。アバはアニエッタ、ビョルン、ベニー、フリーダの男女4人によるスウェーデン出身の混成ハーモニー・ポップ・グループで判りやすく親しみ易いメロディで一世を風靡したバンド。アバの刺激を受けてニュートンファミリーだのアラベスクだのジンギスカンだのノーランズだの、この類のグループが沢山登場しては消えていった。当時私もこのようなグループの存在に気付きながらも殆どの音楽を無視した。このサンダンスの存在にしてもしかりで、当時はサンダンスの存在すら知らなかったという有様。当時は本当にこの類のバッタ物(失礼!)が雨後の筍の如く登場していたし、それらの多くを洋楽ファンが全てフォローするなんてのは土台無理だったのである。
作品に触れてみよう。「Sundance」は彼女が関わったサンダンスの音源を収録した作品。彼女はマイク・ハーストに説得されたバンドに加入したものの、サンダンスの音楽性や活動方針、ツアーなどの諸問題、夫ヴィスコンティとの離婚問題などにより途中でバンドを抜けてしまっている(解雇されたという記述もあり)。簡単に個別の曲に触れてみたいが、「The Smile On Your Face」はメリーの清楚な歌声が堪能出来るポップ・ナンバーだが、バックの演奏は安っぽい '80年代ポップといった有様。彼女の声はアップル時代となんら変わりはないのだが、バックの演奏だけが違うという、なんともチグハグな曲。「Earth Song Ocean song」や「Live at the Royal Festival Hall」でのメリーの音楽を知る人にはなんともびっくり仰天なポップ・ソングだが、メリーを知らなければB級ポップ・ソングの佳作として及第点をあげるかもしれない。「Take Your Time」も同様のポップ・ソング。メリーはバック・ヴォーカルに回っている。
「What's Love?」は1981年にシングル化されたポップ・ソング。『ポップ・ソングを唄うのが嫌、お人形になるのは嫌』、とポール・マッカートニーにかつてNO宣言した過去を知らなければ、ポップ・ソングとしては及第点を挙げられる。リズムの盛り上げ方などは、メンバーがかつてロック・バンドに加入していた過去があるからか、アバのバッタ物の類のグループなんかよはずっと好感が持てる程だ。「Heart To Beat」は男性ヴォーカルとメリーの歌が絡むポップ・ソング。安直ながらもリズムは良質なブリティッシュ・ポップの遺伝子を汲むもの。捻りも多少効いているし、これなら許せる。ハーストの作詞/作曲による「A Good Old Song」のネタ元はずばりアバ。「Walk Right In」は定番フォーク・ソング。誰もが知っているあの歌に更に '80年代らしい味付けがされている。「What's It Doing To You And Me?」はこれもハーストによる曲だが、軽快なカントリー・ロック風に仕上がっている。
「Never Going Back/Silver Threads And Golden Needles」もポップ・ソングとしては及第点を上げられるナンバーだが、何度も書くがかつてのメリー・ホプキンの音楽スタイルを知らなかれば、という但し書きが付く。アルバムはこれまたアバ風の「So Sad」でエンディングを迎える事になるのだが面白いのは10曲目以降のボーナス・トラック。ツアーの模様から収録されたライヴ録音で恐らくオーディエンス録音であると思われるチープな録音状態なのだが、興味深い事に「Those Were The Days」が収録されている。ハーモニー・ポップス風情の本編とは聊か趣が異なるカントリー・スタイルなのに驚かされるが、「Those Were The Days」の唄い出しで観客が拍手をする際には感慨深いものを感じてしまった。この時点で既に過去の名声は過去のものになってしまったと思われるが、観客はかつてのアップルの歌姫を忘れていなかったのである。とても面白い作品でメリー・ホプキンのファンなら抑えておきたい1枚と書いておく。内容は兎も角、これは”資料”と思って買うべきだ。

ミュージックシーン (1998/01/25)
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