#1123 First Band From Outer Space / Impressionable Sounds Of The Subsonic (2006)
2. Utan Att Veta
3. Mean Spacemachine
4. Impressionable Sounds Of The Subsonic
5. To Be Seen As The Underdog
6. Grona Hander
7. Todo Pasera
8. Mission Completed

今回紹介するアルバムは店頭で衝動買いするまで全くなんの予備知識も持ち合わせていなかったアーティスト。2000円以上なら間違いなく購入してはいなかったと思うが、中古価格という事もあってレジに運んでしまった1枚。薄気味悪いジャケットからなんとなくサイケデリック・ミュージックの類とは思ったが、なんとなく私の心を呼び止める何かを感じたので、エイヤ!と購入を決断した次第。家に持ち帰ってインターネットで調べるまで旧作の復刻なのか、それとも新鋭バンドの最新作なのかもも判らなかったのだが、調べてみると、このバンドの名前はファースト・バンド・フロム・アウター・スペース(First Band From Outer Space)といい、2005年にデビュー作品を発表したばかりのスウェーデンのバンドである事が判明した。近年北欧ロック・シーンからは有力なサイケデリック系アーティストの登場が後を絶たないが、本バンドもそんなシーンから満を持して登場したバンドの一つなのだろう。
ちなみにアウター・スペース(Outer Space)とは宇宙空間のこと。トホホなB級映画マニアの方なら史上最低の愛すべき映画監督と言われるエド・ウッド監督『プラン9・フロム・アウタースペース』、ジャズ・ファンならサン・ラが率いたアウター・スペース・アーケストラ当りを連想するかもしれないが、私が生まれる前から”Outer Space”というキーワードは音楽や映画、TV、小説の世界などでコンセプトのネタ元としてしつこい位に利用されてきた。ロック・ミュージックの世界では特にサイケデリック・ミュージックが登場してきた時期以降、”Outer Space”のイメージが利用される機会が増えてくる。シンセサイザーを利用した音楽やLSDによるトリップ感覚を具体化したような音楽に宇宙空間をイメージさせるような部分があったからだ。初期のピンク・フロイド、そしてホークウィンドやゴングといったバンドは”Outer Space”のイメージを巧く取り込んだバンドと言えるだろう。コズミック系ジャーマン・ロック・バンドも然り。
さて、異空間の使者達は地球人向けの音楽を構成する為に過去の地球人が生み出した音楽を参考にする事となった。彼等が題材として選んだのがピンク・フロイドやゴング、ホークウィンド、オズリック・テンタクルズといった、サイケデリック・ロックやスペース・ロック、プログレッシヴ・ロックのジャンルで語られる音楽。このようなスタイルの音楽なら彼等の趣味趣向とも合致する。更に活動の拠点となったスウェーデン出身のケブネカイゼ、ノベンバー、トラッド・グラス・オーク・スターといったバンドのサウンドも参考にした模様である。さて、こうした内外のロックをよく研究した彼等使者達による FBFOS は2003年2月に最初のレコードを発表、同年夏にも続くレコードを発表している。最初のフル・アルバムは2005年に発表された「We're Only In It For the Spacerock」。基本構成の4人を中心に制作が行われた。翌2006年には早くも2枚目となる「Impressionable Sounds of the Subsonic」を発表する。
Transubstans
■ Johan From Space - Lead Vocals, Guitars, Synth
■ Starfighter Carl - Drums, Vocals, Percussion
■ Space Ace Frippe - Bass, Vocals, Synths, Percussion
■ Moon Beam Josue - Flutes, Vocals
■ Space Beard Emil - Percussion
■ Astro Rille - Vocals
■ Erki On Mars - Space Organ
SF映画の古典と言われるジュール・ベルヌ原作による無声映画『月世界旅行』は今から100年以上も前の1902年に制作されている。これ以降、多くの文化人・知識人達が宇宙を題材とした小説や映画を作り続けてきた。SF映画とはその名の通り”Science Fiction”に基づいて制作される空想科学映画なのであるが、その実映画が制作される時代背景というか、社会や文化、流行などの世相を反映して作られるケースが大半だ。20世紀の初頭において米ソが宇宙開発の予備段階として燃料ロケットの打ち上げ実験を行うようになると映画界では宇宙旅行や宇宙探検を題材とした映画が作られるようになる。戦後の米ソ冷戦の時代には映画の世界でも宇宙をテーマとしたSF映画が沢山制作されるが、一触触発の時代を反映してか、「地球最後の日」「宇宙戦争」「地球の静止する日」といった終末映画が作られるようになる。そして時代が豊かになり、人々の暮らしも改善されるようになると映画の世界でも娯楽性豊かなSF映画が沢山作られるようになる。
1960年代の後半に活動を開始したピンク・フロイドやソフト・マシーン、ホークウィンド、そしてドイツのアモンデュールIIなどのバンドを形作っていたメンバーの大半は1940年代生まれ。そうすると彼等の多感な青春時代は1950年代という事になる。実はSFの世界では1950年代が全盛と言われ、米ソ冷戦という時代背景を受けて多くのSF映画の傑作が生み出され、また小説の世界でも多くの怪しげな小説が生み出されている。多感な時代にこうしたSFに触れた多くの少年達が精神の深部にSF的発想を焼付け、ビートニクからサイケデリックに移行していった時代、紫の煙の向うに”異空間”を見出してもなんら不思議はなかったのである。だが、ティモシー・リアリー、フィリップ・K・ディック、ウィリアム・S・バロウズ、ケネス・アンガーといった異端な人物が登場した1960年代から既に40年近い時間が経過した。今の時代に”サイケデリック”というキーワードをどのように扱ってよいのか、私は判らないが、意識改革や覚醒を呼び覚ます音楽としての効能は今でも恐らく不変だろう。
「Impressionable Sounds Of The Subsonic」は彼等にとって恐らく通算2枚目の作品。手にとるモノの不安感やイマジネーションを触発するようなジャケットがいかにもスペース・ロックらしい。メンバーは前作と不変、更に今回はゲスト奏者として3人の演奏家が参加している。”宇宙からの来訪者”というバンド・コンセプトに沿ってメンバーにはそれぞれ、”らしい”ステージ・ネームが与えられている他、ゲストにもその線に沿った名前が与えられている事から、ゲスト奏者を含むメンバーが他の名前で音楽活動を展開している可能性も示唆できよう。さて、頭曲「Novaja Zemelja」はクジラの歌から始まる。映画ファンなら『スタートレックIV 故郷への長い道』では未知なる彼方からの宇宙船との交信にクジラの歌が使われた事を思い出すだろう。曲はジョイ・ディヴィジョンやキリング・ジョークのようなハードなゴシック・ロック調の展開へと移り変わる。「Utan att veta」は前曲の続きのような曲で尺八のような縦笛?の音色が微妙な色彩を曲に投入する事になる。
「Mean Spacemachine」も確かに”Outer Space”を彷彿とさせるようなエフェクト(しかも意図的にワザと安っぽく演じている)もあるが、ピンク・フロイドやホークウィンドのようなサイケデリック/スペース・ロック、或いはジャーマン・コズミック系に影響を受けたバンドからの二次利用といった感も感じされる。1960年代~1970年代ロックからの直接的な影響というよりも、これらの時代の音楽の影響を受けたバンドからの影響、といった間接的な影響を強く感じる孫世代のサイケデリック/スペース・ロックだ。「Impressionable Sounds of the Subsonic」は10分に及ぶタイトル・ナンバー。寂れたメロディが郷愁感を感じさせる。ハモンド・オルガンが入るパートでは1960年代末のごった煮的なロック・サウンドを彷彿とさせる。”Outer Space”じみた子供だましのエフェクトを除外すれば、相対的にハード・ロック的な進行と言えるだろう。曲は切れ目なしにアコースティック・アシッド・フォーク調の「To be seen as the Underdog」へと継続する。
「Grona hander」も同様のハードな展開のヘヴィ・ロック。パーカッシヴなトランス・ミュージック風の展開が長々と続くが、やはり最後はハード/ゴシック風のヘヴィ・ロック然とした曲に様変わり。フルートの音色と共に始まる次曲「Todo pasara」も”Outer Space”らしい色彩はエフェクトやギミックの類だけ。ハモンド・オルガンも入る後半の盛り上がりはどうしたって、古き良き時代のハード・ロックだ。「Mission Completed」はエンディング曲。冒頭曲「Novaja Zemelja」でも登場したクジラの歌が再び登場する。彼等”宇宙からの来訪者”達はクジラの歌を利用して地球外との交信に利用したのであろうか(ちなみにNASA(National Aeronautics and Space Administration)が1977年に打ち上げたげた無人惑星探査機ボイジャーには地球上の様々な音を詰め込んだ”The Sounds of Earth”という Golden Record(注:CDではない)が乗せられているが、このレコードにクジラの歌も収録されている)。
アルバムに対する総評であるが、”Outer Space”らしいエフェクトやギミックは単なる小手先の遊びだけで、バンド本来の持ち味はどうやらロック・サウンドの力感やダイナミズムを求める方向らしい。ピンク・フロイド(「星空のドライヴ」の長尺バージョンを連想してもいい)、ゴング、ホークウィンド、オズリック・テンタクルズ、その他幾つかの1960年代/1970年代ロックの影響を間接的に受けつつもの、ハードコア・ムーブメント、グランジ、ネオ・サイケリアといった幾つかのムーブメントを肌身で過ごしてきたバンドらしい21世紀のバンドらしいアレンジも随所で見受けられ、サイケデリック/アシッド・ロックからの影響うんぬんといった単調な講釈で解説出来るバンドではないかもしれない。シド・バレットの時代なら兎も角、いまどきこうした音楽を幾分斜に構えている面も見えるとはいえ、取り組もうとする人は恐らく根はマジメな人に違いない。年齢層も意外と高い筈だ。
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