#1162 Mike Vernon / Bring It Back Home (1971)
02. Move Away
03. Mississippi Joe
04. Brown Alligator
05. Come Back Baby
06. War Pains
07. Dark Road Blues
08. She Didn't Have Time
09. Ain't That Lovin' You Baby
10. My Say Blues

1960年代後半のイギリスにおける所謂”ブルース・ブーム”の立役者は誰?と尋ねられれば、それはもう1944年生まれのイギリス人プロデュサーであるマイク・ヴァーノン(Mike Vernon)につきるだろう。あの時代の作品、特にジョン・メイオールズ・ブルースブレイカーズ、フリートウッド・マック、チキン・シャック、サヴォイ・ブラウン、テン・イヤーズ・アフターといった早々たる英白人ブルース・メン達の作品を手掛けた事でも知られる人で、ジョン・メイオールが差し詰め”英ブルースの父”なら、プロデューサーとして当時の英ブルース・シーンを裏から支えたマイク・ヴァーノンは”英ブルースの大家さん”とでも言ってもいいだろう。ご存知の通り、マイク・ヴァーノンはブルー・ホライズンというレーベルを1960年代半ばに設立した人。当初はブルースの通販会社としてスタートを切ったが、1967年にCBSレコードが同レーベルの作品のディストリビュート(配給)を手掛けるようになってからブルー・ホライズンの知名度は急速にアップしていったのだった。
マイク・ヴァーノンは1944年英ハロー出身。彼がデッカに就職したのが1963年で、そこでも数多くの作品を雇われプロデューサーの立場で手掛けている。カーティス・ジョーンズ、チャンピオン・ジャック・デュプリー、オーティス・スパンといった連中の作品もさることながら、なんといっても彼の名前を広く知らしめたのがジョン・メイオールの「Bluesbreakers with Eric Clapton」だろう。ロック・ファンなら本作がその後のロック・シーンにどれだけ影響を与えたのが知っている筈なのであえて本作の評価についてはここでは書かないが、ヴァーノンはエリック・クラプトン脱退後に加入したピーター・グリーン参加のブルースブレイカーズの作品も手掛けた事から、その後ピーター・グリーンと活動を共にする事になるのだ。上記のようにCBSと契約を結ぶ事に成功したブルー・ホライズンは1667年にまずはお披露目のシングルを、1968年からは本格的にアルバムを発表している。同年の同レーベルの代表アーティストといえばなんといってもフリート・ウッドマック。同バンドのメンバーがかつてジョン・メイオールの下で演奏活動を展開していた事からブルー・ホライズンからのデビューとなった。
1968年から1969年にかけてブルー・ホライズンはフリートウッド・マック「Peter Green's Fleetwood Macfleetwood」「Mr. Wonderful」「The Pious Bird Of Good Omen」「Blues Jam At Chess」、チキン・シャック「40 Blue Fingers, Freshly Packed and Ready to Serve」「O.K. Ken?」「100 Ton Chicken」といった、当時の英ブルース・ブームにおける人気バンドの作品を発表して世間の注目を浴びた。ピーター・グリーンやダニー・カーワンらフリートウッド・マックのメンバーのサポートを受けて制作されたオーティス・スパン「The Biggest Thing Since Colossus」も同レーベル作品である。ただ、ブルー・ホライズンとフリート・ウッドマックの関係は同レーベルが契約延長の契約を結ばなかった為、同バンドはリプリースに移籍してしまう。更にブルース・ブームそのものも次第に飽きられてしまった為、CBSもブルー・ホライズンとの契約を打ち切ってしまった。
CBSとの提携解消後、1970年からブルー・ホライズンは新たにポリドールと配給契約を結んで新作を発表する。そこではオランダのフォーカス「Moving Waves」(1971年)を提供するという大金星もあったにはあったが、ハード・ロックやプログレッシヴ・ロックという音楽シーンでの新たな動きに符号する事の出来なかったブルー・ホライズンは1972年に終止符を迎えてしまう。しかしながらプロデューサーとしての仕事はブルー・ホライズン崩壊後も後を絶たず、1970年代にはフォーカス、フレディ・キング、ブラッドストーン、ジミー・ウィザースプーン、ドクター・フィールグッド、1980年代にはレベル42、エリック・クラプトン、スティーヴ・ギボンズ、ロッキー・シャープ&ザ・リプレイズ、ドクター・フィールグッド、ミック・クラーク・バンドといったアーティストの作品も手掛けている。また、1974年から1979年までオリンピック・ランナーズという英ファンク・バンドの仕掛け人としての仕事もこなしていた経歴をも持つ。




■ Mike Vernon - Lead Vocals, Bass, Lead Rhythm Guitar, Harmonica, Percussion
■ Paul Butler - Lead Guitar
■ Rory Gallagher - Lead Guitar
■ Rick Hayward - Lead, Rhythm & Pedal Guitar, Acoustic Guitar
■ Paul Kossoff - Lead Guitar
■ Kenny Lamb - Drums, Percussion
■ Pete Wingfield - Piano, Organ
■ Laurence Garman - Harmonica
■ Dick Parry - Tenor Saxophone
1960年代末での英ブルース・ブームの立役者という評価ばかりが先に立つ人であるが故に、彼が1970年代以降にファンク・バンドのオリンピック・ランナーズやネオ・ロカビリー/ドゥーワップ・バンドのロッキー・シャープ&ザ・リプレイズを手掛けていた過去は今では殆ど語られる事もないが、まあ英ブルース・ブーム時代に数多くの作品制作に携わってきた偉大な経歴の前には仕方あるまい。マイク・ヴァーノン=ブルー・ホライズンの足跡を1セットで済ませたい、という人には「ブルー・ホライズン物語 Vol.1」という3枚組のコンピがある。1997年に1度市場に登場、その後2006年にリマスター化の上、再度登場した。CBS配給時代の音源だけでなく、CBSと配給契約を結ぶ以前の音源も収録されている貴重なものらしい。マイク・ヴァーノン自身による解説を掲載したブックレットも付属しているというから、より詳細にマイク・ヴァーノン=ブルー・ホライズンの歴史を知りたい方には購入をお勧めしたい。
さて、今回は趣向をこらして裏方マイク・ヴァーノンとしてよりも、自らが主役となって制作した、ロック・アーティストとしてのマイク・ヴァーノンの作品を取り上げる。マイク・ヴァーノンの名前がクレジットされた作品を数多くコレクションしている人ならお判りの通り、マイク・ヴァーノンはプロデューサーとしてだけでなく、時にはパーカッションやバッキング・ヴォーカルをも担当する事がままある。勿論そんなケースはそれ程多くはないのだが、趣味が嵩じて自分名義のソロ作を発表した過去もマイク・ヴァーノンにはあるのだ。私の知る限り、マイク・ヴァーノンには2枚のソロ作品が存在する。ブルー・ホライズンがポリドールと配給契約を結んでいた時代に発表された「Bring It Back Home」(1971年)、1973年にサイヤーから発表された「Moments of Madness」の2枚。「Moments of Madness」の方は所有していないので今回はデビュー・ソロとなるポリドール音源を取り上げてみたい。
「Bring It Back Home」は1971年にポリドールの配給を受けて発表されたブルー・ホライズン作品。収録は全10曲でプロデュースは勿論ヴァーノン自身の手によるもの。ジミー・リードのカバー曲もあるが、10曲中なんと6曲がヴァーノン自身の手によるもの(更に1曲が参加メンバーとの共作)。更に当人自らギターやベース、パーカッション、ハーモニカを手に取って演奏を披露するなど、八面六臂な活躍を見せてくれるのが本作だ。プロデューサーとしての側面しか知らない音楽ファンには驚く事請け合い。ポリドールのスタジオで収録された本作にはポール・コゾフ、ロリー・ギャラガーという涎物の名前も見られるが、音楽プロデューサー自身が作りあげたソロ作品という性質上、特定の演奏者の演奏をクローズアップする手法は採られておらず、バンド全体のアンサンブルを重視する方向が採用されている。結果、実に飽きのこない安定したスワンプ混じりのブルース・ロックを堪能する事が可能な作品に仕上がっているのが特徴だ。
冒頭のナンバーはやはり渋いブルースで来るのか、という大方の予想を裏切る、ブルー・ホライズンのリック・ヘイワードのスライド・ギターが堪能出来る米南部サウンド混じりのブギ・ロック調「Let's Try It Again」。「Move Away」もまた当時の時流を反映したかのようなサザン・テイストなブルース・ロック。「Mississippi Joe」はタイトルから大方連想される通りのカントリー・ブルース。ヴァーノンのカントリー・ブルース・ギターに対抗してリック・ヘイワードもアコースティック・スライド・ギターで応戦。「Brown Alligator」はジャズ・ロック・フィーリングをも感じさせる10分超の大作。ヴァーノンはエコーを効かせたリード・ギターを担当、対してヘイワードはジャズ・ギターで作品を盛り上げる。サックスは後にピンク・フロイド「狂気」の「Money」「Us And Them」に参加したディック・パリー。「Come Back Baby」はドクター・ロスの作品。エフェクターを使用せずにギター本来の音を醸し出す事で定評のロリー・ギャラガー様襲来曲。2分程度の短いブギ・ナンバーだが、欲を言えばもっと長く聴きたい曲でもある。
「War Pains」はCBS配給時代のブルー・ホライズン・サウンドを彷彿とさせる典型的な黒人ブルースのコピー。ブルース・ブームの仕掛け人のソロ作品の割にはオーソドックスなブルース・ナンバーが並んでいない事に不満を覚える人には溜飲を下げる事にうってつけのナンバーであろう。「Dark Road Blues」はデルタ・ブルースのウィリー・ロフトンのカバー。ヘイワードのカントリー・ブルース・ギターが映える。「She Didn't Have Time」はファンク掛かったナンバー。ヘイワードのワウワウペダル奏法とバックのソウルフルな演奏がよく合致している。「Ain't That Lovin' You Baby」はジミー・リードのカバー。ビートの効いたブギ調のリズムが堪らない。最終曲「My Say Blues」では泣きのギター、ポール・コゾフが参加。ヴァーノンはシカゴ・ブルース調のギターの、ヘイワードはチャック・ベリー・スタイルのギターの、それぞれリズムを担当するが、なんといっても噎び泣くポール・コゾフのギターが本曲の利き所の一番である事はいうまでもない。
最後まで触れる機会はなかったが、全篇を通じてリード・ヴォーカルを担当したマイク・ヴァーノンの歌は可も無く不可も無く、といったレベル。歌は余り巧くないが、それなりに味わい深いヴォーカル、と書いて本レビューを締めておく。曲のレベルも悪くない。それともうひとつ、CDのジャケット製作者の方にお願いしたい。オリジナル・ジャケットに記載されていなかった、売らんが為の赤文字はフォトショップで付け加えないで下さい。
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