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#1179 Anima Sound / Musik fur Alle (1971)(1999)

 2007-08-31
01. N Da Da Uum Da
02. Traktor Go Go Go

Anima Sound/Musik fur Alle

前回取り上げたドイツの前衛音楽ユニット、ツヴァイシュタインに続いて今回も再びドイツの前衛音楽ユニットを取り上げてみたい。今回はパウル・フックスとリンペ・フックスの夫婦によるアニマ(アニマ・サウンド)という変態音楽ユニットだ。ツヴァイシュタインは主に現代音楽の表現手法の一つでもあるミュージック・コンクレート(具体音楽)を用いてフリーキーな音楽を作り上げたが、フックス夫婦が作り上げた音楽もフリー・ジャズや実験音楽をベースに音楽を構築するなど、既存のポピュラー音楽の枠組みを見事なまでに崩壊してみせた。彼等フックス夫妻の音楽に触れる前に少々現代音楽の歴史に簡単に触れてみたい。クラシック音楽の世界では1920年代にオーストリアの作曲家シェーンベルク(1874-1951)が十二音技法を使った作品を発表して無調音楽の扉を開く。シェーンベルクの試みはその後の新ウィーン楽派の弟子達であるアントン・ウェーベルンやアルバン・ベルクに引き継がれていく。

この後、時代の経過と共に総音列音楽(メシアン、ブーレーズ、シュトックハウゼン)、偶然性の音楽(ジョン・ケージ)、また電子音楽やミュジーク・コンクレートといった、一般人には奇妙奇天烈な雑音にしか聞えないような音楽が登場してくる。これらの音楽は(場合によってはミニマル・ミュージック{スティーヴ・ライヒ、テリー・ライリー、フィリップ・グラスなどの作曲家が有名}も含め)、通常一般的に現代音楽と称される。ちなみに現代音楽以前の音楽は通常、近代音楽と呼ばれて現代音楽とは区別される。どの時代から、或いはどの作曲家から、といった明確な区分けは専門家の間でも意見は分かれるようなので、ここでは触れない。また、現代音楽と言っても、現代の音楽は全て現代音楽であると解釈する事も出来るので、よくよく考えれば”現代音楽”という言葉は曖昧と言えば曖昧だ。まあ、いずれにせよ、通常現代音楽と言えば、神経を逆撫するような前衛/実験的な音楽を連想するのが普通だろう。

さて、固い話で恐縮だが、巷に溢れている音楽の殆どは調性の音楽という分野に含まれている。調性の音楽とは簡単に言ってしまえばルールに沿ったメロディ(旋律)やハーモニー(和声)によって構成される音楽の事。ジャズやポップス、ロックならこれらにリズム(律動)という大事な要素が加わる事で音楽が構成される。調性という約束事の上で構成されているという点においてはビートルズもレッド・ツェッペリンも演歌もポップスも実は大差ない。クラシック音楽の世界では戦前~戦後を通じて、新ウィーン楽派、メシアン、セリー主義の前衛三羽鳥(ブーレーズ、シュトックハウゼン、ノーノ)、アメリカのジョン・ケージ、音群的音楽(トーンクラスター)の旗頭ペンデレツキ、数学の論理を用いて作曲を行ったクセナキス、電子音楽やミュージック・コンクレートのピエール・シェフェールやピエール・アンリらよって挑戦的な音楽が生み出されてきた。そしてジャズの世界では遅れる事1959年。オーネット・コールマンの問題作「ジャズ来るべきもの」からフリーな音楽の研究が勃発化。

元来ジャズは定まった和音(コード)や律動(リズム)の中で演奏者がアドリブ演奏を行う音楽。だがその定められた仕組みの中で構築される伝統的なジャズとは異なり、既存のメロディやリズムやハーモニーの定型に拘らない新しいジャズを生み出そうとしたのがオーネット・コールマンという人物だった。コールマンの音楽を含め、コード進行を無視した、こうした音楽は形式に囚われない自由奔放なジャズという意味を込めて”フリー・ジャズ”といつしか呼ばれるようになる。前衛・実験音楽にしろ、フリー・ジャズにしろ、いずれも従来の作曲の約束事に沿った音楽でないだけに、通常の感覚の持ち主からすれば違和感この上ない音楽(というより雑音か)として聴こえる筈。こうした音楽は戦争ドキュメンタリーのBGMやホラー映画のBGM(不協和音は恐怖感を煽るのに最適)、シュヴァンクマイエル(チェコ)のようなシュールな映像作家の為の音楽として使われるケースが多いだろう。だが世の中には好き者も少なからず存在する。所謂好事家と呼ばれる人たちだ。

実験音楽―ケージとその後
「実験音楽―ケージとその後」
 [単行本]
 著者:マイケル ナイマン
 出版:水声社
 発売日:1992-12
 価格:¥ 3,150
 by ええもん屋.com

■ Paul Fuchs - Schilfzinken, Fuchshorn, Fuchsbass, Metal Sound Sheets, Voice
■ Limpe Fuchs - Voice, Percussion, Drums, Fuchszither

■ Willi Neubauer - Electronics

パウル・フックスとリンペ・フックスの夫婦による異端のユニットが活動を開始したのは1960年代後半の事。ミュンヘンのアンダーグラウンドなロック・シーンで産声を上げたエクスペリメンタルなユニットだ。ドイツで彼等のようなエクスペリメンタルなバンドが活動を開始するキッカケとして、米西海岸を発祥の地とするサイケデリック・ミュージック、そして1968年にドイツ(Essen)で開催されたロック・フェスティヴァルが大きな影響を及ぼした事は今日では比較的よく語られるようになった。更に戦後から1960年代まで発展を続けてきた前衛音楽の存在も当然無視出来ないし、1960年代に登場したフリー・ジャズという無定型の音楽もゲルマン民族の神経を大いに刺激したに違いない。ジョージ・マチューナスが主唱したフルクサス芸術運動も時代を考えれば少なからず影を落とした筈だし、更にマルチ録音を可能にした録音機材の発展や、「スウィッチト・オン・バッハ」という革命的なシンセサイザー・アルバムも時の表現者達のセンスを大きく研ぎ澄ました筈である。

恐らくはフリー・ジャズや実験音楽の類を参照にしたと思えるフックス夫妻の音楽は従来の古典的な西洋音楽の概念とは全く別の次元に存在するものだ。アングラなバンドの代表的存在であった幾多のジャーマン・ロック・バンドさえ、体面上は(とりあえず)ブルース・オリエンテッドな音楽を演奏する体系を整えていた例も少なくはなかったが、彼等の場合はハナからそんな事などお構いなし。あのカンでさえ、ギター、ベース、ドラムスといった当たり前の構成をベースにしていたのだから、まさにフックス夫妻恐るべし、といったところだ。流石は戦後現代音楽の巨人シュトックハウゼンを生んだ国だ、自由奔放、言葉通りの”フリー・ミュージック”を結成当初からドイツ国内を巡回しては演奏して聴衆の度肝を抜いてきたという。『みんなのおんがく(Musik fur Alle)』と書かれたトラックに演奏の為の機材を積み込んではジプシー(ロマ)の如く、ドイツ国内を巡回したというから驚きのヒッピー夫妻だ。

彼等夫妻のアルバムとして確認出来るものは、まずは1971年のアニマ・サウンド名義「Sturmischer Himmel」。ドイツにおけるエポック・メイキングなイベント「エッセン・インターナショナル・ソング・フェスティヴァル」(1968年)の主宰者でもあったロルフ・ウルリッヒ・カイザーが立ち上げたレーベル、Ohr から発売。Ohr はエッセンで開催された音楽祭に出演した米サイケ勢、特にザッパの圧倒的に尖鋭な音楽に来るべき新世代の音楽の方向性を感じ取ったカイザーが設立したレーベルで、カイザーの趣旨に賛同した幾つかのドイツのアングラ・バンドがカイザーに身を任せるように同レーベルと契約を結ぶ事になる。フックス夫妻と Ohr との契約の経緯は知らないが、畢竟するに、まあ同じ様な理由であろう。夫妻はカイザーが設立した同系の兄弟レーベル、Pilz にもアニマ名義で「Anima」というアルバムを1972年に発表しているが、ここでは夫妻の他、フリードリッヒ・グルダという著名なクラシック畑のピアニスト(ジャズ畑でも活動、2000年に死去)も参加している。

夫妻はこれら Ohr/Pilz 作品以外にも、「Rock In Deutsch」(1972年)、「It's Up To You」(1974年の自主制作2枚組?)、「MONTE ALTO」(1977年)、「Der Regt Mich Auf」(1979年)といったタイトルの作品が存在するようで、更に1980年代や1990年代にも関連作品が存在するみたい。現状、市場で入手出来るのかどうかでさえ、疑わしい作品ばかりだが、今回私が紹介する作品は1971年のアニマ・サウンド名義の「Sturmischer Himmel」以前に録音されたという幻のデビュー作?「Musik fur Alle」。1971年の夏、独デュッセルドルフのスタジオで3日間で録音を完了させた作品だという。CDはイタリアの音響/実験音楽系専門レーベルの Alga Marghen から発売されたもの。マスターは1999年。オリジナルは自主制作盤だった模様。私はこれと前出の Ohr 盤「Sturmischer Himmel」 の2枚しか持っていないのだが、制作は共に1971年という事もあり、作品そのものに然程差異は感じられない。両者共に原始的なフリー・ミュージックという井出達だ。

例えばカンやグル・グルといった、非ロック系音楽家達で構成されていたバンドであっても、借り物であるとはいえ、取り合えずはロック・ミュージック・バンドの衣を着て、{彼等也の}ロック・ミュージックを演奏しようと試みた。フェイク・ロックであっても、取り合えずはロックの範疇で語れる音楽には違いないのであるが、フックス夫妻が作り出した音楽にはそんな媚すら姿形も見られない。基本となるのは夫パウルの手による自家製楽器(フックスホルン、フックスベース)と妻リンペの手によるパーカッション、それにオノ・ヨーコからの影響も感じさせる霊媒師さながらのカルトな呪術ヴォイスの絡み合い。エンジニアとして制作に関与したウィリー・ノイバウアーの自作の電子機器による参加も無視出来ないだろう。彼等の作り出した音楽から感じられる、おどろおどろしい雰囲気からサタニズムからの影響を感じる取る事も可能だろうが、当時は黒魔術が持つ妖しい雰囲気を自己の創作物にスパイスの一つとして盛り込む例は少なからず存在した。

後のスロッピング・グリッスルやノイズ/エクスペリメンタル系バンドなどに影響を及ぼした先進的なバンドとして高く評価したい。
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コメント
ゼーセルベルグ、ツヴァイシュタインと聴いて、ドイツにもこんな音楽があったのかと大変興味深く思っていたので、こちらも是非聴いてみたいです。
いつもいつもドイツのコアな作品をレヴューしていただき、非常に勉強になりま~す!
【2007/08/31 21:42】 | クロム #- | [edit]
コメントありがとうございます。実験音楽やフリー・ジャズの要素を盛り込んだ音楽なので、本当に一般の洋楽ファンには間違ってもお奨めできないグループですよ。
【2007/09/01 13:46】 | Cottonwoodhill #- | [edit]












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