#1183 Gillian McPherson / Poets And Painters And Performers Of Blues (1971)
02. It's My Own Way
03. Look What We've Got To Do
04. They All What Somebody To Blame
05. Who's At The Deceiving End?
06. I Am The Runner
07. Is Somebody In Tune With My Song?
08. We Can't Be The Last Line
09. Flight
10. Lazy Dreamer
11. Poets And Painters And Performers Of Blues

店頭で見つけた時に即座に買わないといつの間にかなくなるヒューゴ・モンテス・プロダクション(HUGO-MONTES PRODUCTION)。ネット上ではUKのレーベルだ、いや韓国のレーベルだと、いろいろ諸説あるようだが、このレーベル、ブリティッシュ・フォークやプログレ然としたカルト・ロック作品などを提供してくれるなど、なかなかどうして有難いレーベルだ。難点を付けるとすると市場でいつもストックがある訳ではない事、それに正規盤なのか海賊盤なのか判断はつかぬ事。兎に角胡散臭いレーベルである事はCDの盤面を見れば一目でわかる。通常ならよく見られる筈の音楽著作権管理団体の名前やロゴの表示がないのだ。日本盤だと日本音楽著作権協会(JASRAC)、更に世界にはGEMA(ドイツ)、SACEM(フランス)、SIAE(イタリア)、SGAE(スペイン)、BUMA(オランダ)、ESSE(ギリシャ)、SUISA(スイス)といった著作権協会があるのだが、そうした表記が全くない。それにヒューゴ・モンテス・プロダクション(HMP)の管理番号意外の社の住所といった表記も一切ない。
これじゃあ、まるでどこに会社があるのかを知られたくないかのようでもある。怪しさ100%のレーベルなのであるが、このレーベル経由で市場にリリースされているアルバムの多くは非常に貴重な、レアな作品が揃っているのでHMPのレーベル運営者の選択基準のレベルはなかなかどうして侮れない。で、今回紹介するジリアン・マクファーソン(Gillian McPherson)なるイギリスの女性歌手のレアな作品もHMPから提供されている。以前からブリティッシュ・フィメール物、女性SSWの好きな方には注目され続けてきた作品で、欧州の香り漂う雰囲気を持つ品の良いジャケット共々密かに支持されてきた作品だが、肝心のHMP製のCD冊子は不親切とは言わないが、曲名と歌詞、演奏者のクレジットや制作者名などが記載されてはいるものの、彼女のバイオグラフィに関する記載は全くない。が、1971年のアルバム「Poets And Painters And Performers Of Blues」発表当時、イギリスである程度の演奏活動を展開していた事は判っている。
1971年2月のハットフィールド・ポリテクニックでの公演ではヘロン(Heron)やゴーストのヴォーカリストとしても知られるシャーリー・ケント(Shirley Kent)と共に出演、同年4月のロンドンはチョーク・ファーム駅周辺のラウンドハウス公演ではイースト・オブ・エデンと共に出演(ちなみにこの時期ラウンドハウスにはジリアンの他、アージェント、ブライアン・オーガーズ・オブリヴィオン・エクスプレス、ダンド・シャフト、メディシン・ヘッド、ブリンズリー・シュウォーツ、イエス、ロン・ギーシン、エクレクション、カーティス・マルドゥーン、ヘルプ・ユアセルフなどのバンドが出演している)、タンブリッジ・ウエルズのアセンブリー・ホール公演ではSSWのラルフ・マクテルや男女混合のエレクトリック・トラッド・バンドのジェイド(前年の1970年に唯一作「Fly On Strangewings」を発表)と共に出演。アルバムが発表された秋にはロンドンのショー・シアターでダンド・シャフトやジリアンとは同期の桜デイライトと共にステージに立った。
さらに1971年9月のアルバム発表前に当る同年7月にはジリアン・マクファーソンは英BBC1テレビ制作による番組「Sing Hi Sing Lo」に元アニマルズのアラン・プライスやマグナ・カルタと共に出演している。これらの事から少なくてもアルバムが発表された1971年にはある程度の演奏活動やプロモーション活動がなされていた事が判る。当時、ブリティッシュ・トラッド/フォーク系のバンドとある程度活動を共にしていた事実もあったようだ。だが、残念ながらジリアン・マクファーソンが音楽シーンに残したアルバムは、この1971年に発表された1枚限り。1971年以降、彼女が音楽活動を継続したのか否か、或いは継続したにしてもどのような足跡を音楽シーンに残したに関しても私は全く把握していない。判っているのは1971年にジリアン・マクファーソンという女性歌手が英RCAに「Poets And Painters And Performers Of Blues」というアルバムを発表したという事実だけである。




■ Gillian McPherson - Vocal, Acoustic Guitar
■ Dave Cousins - Acoustic Guitar
■ Jon Mark - Acoustic Guitar, 12-String Acoustic Guitar, Congas
■ Roy Babbington - Electric Bass
■ Spike Heatley - Double Bass
■ Brian Spring - Drums
■ Tony Carr - Percussion
■ Tommy Eyre - Electric Organ, Piano
■ Johnny Almond - Vibes, Tenor Sax, Flute
■ Peter Halling - Cello
■ Robert Kirby - Strings Arranged & Conducted
■ Danny Thompson - Produce
ところで彼女の唯一の作品を発表したRCAといえば、当時英国でネオンというレーベルを立ち上げていた。ネオンは英RCA(RCAはアメリカ本社のレコード会社)が英大手レコード会社が1960年代末に設立したデラム/ノヴァ、ハーヴェスト、ヴァーティゴ、ドーンといった特殊サブ・レーベルに対抗する形で設立したレーベルだったのだが、立ち上げた時期が英大手レーベルよりも遅かった事が災いしたのか、短命に終わってしまったレーベル。ネオンは1971年から1972年にかけて11枚のアルバムを発表したのだが、その中にはブリティッシュ・トラッド/フォーク系のジャンルに属するダンド・シャフトの作品もあったのだが、(ネオン存在中であったにも関わらず)ジリアン・マクファーソンのアルバムはネオンから発売されずに、母体RCAから提供されている。今回の記事とは直接関係はないのだが、ネオンの作品にはトラッド/フォーク、ブルース、ジャズなどのエキスを含む、多種多様な音楽性を誇ったアルバムがあるので機会があればネオン・レーベルの作品を聴いて貰いたい。
さて、「Poets And Painters And Performers Of Blues」はジリアン・マクファーソンが音楽シーンに唯一残したとされるオリジナル・アルバム。いつの時代からなのかは把握していないが、英国フィメール系SSWを好む音楽ファンから密かに愛聴されてきた1枚だという。RCAは当時、男女ヴォーカルを看板としたデイライトというフォーク・ロック・バンド(プロデュースはトニー・コックス)を送り出しているが、ジリアンも当時のRCAの御眼鏡に叶ったのだろう。収録は全部で11曲。全てジリアン・マクファーソンの手作りだ。更に参加メンバーは大変豪華。参加メンバーの足跡を覗いてみると、でるわでるわ、アレクシス・コーナーズ・ブルースインコーポレイティッド、ペンタングル、マーク=アーモンド、ストローブス、ソフト・マシーン、ニュークリアス、デイライト、エインズレイ・ダンバー・リタリエイション、リフ・ラフといった有名無名取り混ぜたバンド群の名前がひっかかってきた。
プロデュースのダニー・トンプソンはペンタングルのベース奏者。ペンタングルといえばデビュー当初、『ペンタングルはジャズかフォークか』という論争を巻き起こした程、一筋縄ではゆかぬ多種多様な音楽性を誇った超一級のバンド。ダニー・トンプソンはジリアンのアルバムだけでなく、1970年から1971年にかけてペンタングルの一員としての活動の合間を縫ってニック・ドレイク、マリアンヌ・フェイスフル、ジョン&ビヴァリー・マーティン、マグナ・カルタ、シェラ・マクドナルド、チューダー・ロッジ、ロッド・スチュワートといったアーティスト/バンドの作品に参加してきた。本作「Poets And Painters And Performers Of Blues」がフォークとジャズをミックスさせたオリジナル・サウンドを構築してきたペンタングルのサウンドの一端が垣間見て取れるような内容に仕上がっている当りにも注目したい。そしてジョン・メイオールのブルースブレイカーズにも一時参加していたジョン・マークとジョニー・アーモンドによるマーク=アーモンドの参加にも注目だ。
マーク=アーモンドはジャジーでリリカルな繊細サウンドを得意としていたジャズ・ロック・バンド。ミーハーな人気はないが、1970年代前半のイギリスを代表する隠れ名バンドとしての評価を得ているバンドでもある。トミー・アイアーはそのマーク=アーモンドにも一時参加していた人で1960年代からセッションを中心に多くの音楽活動に関わってきた、ブリティッシュ・ロック・シーンにおける隠れ重鎮の一人。1960年代末から1970年代前半にかけて、エインズレイ・ダンバー・リタリエイション、クリス・ハーウッド、マーク=アーモンド、リフ・ラフといったアーティストの作品制作に関わった。ロイ・バビントンは日本ではデリヴァリー、ニュークリアス、ソフト・マシーンのメンバーとしてもお馴染みの人。デイヴ・カズンズはストローブスの創始者。ロバート・カービーは学生時代にニック・ドレイクと学友だった人で彼もストローブスの活動深く関わった。トニー・カーはジリアンと同時期にアルバム・デビューを飾ったデイライトのメンバーの一人。
参加メンバーに触れているだけで記事が終わってしまいそうなので、肝心の音楽に触れてみたい。湖畔に佇むジャケット写真からは、しっとりとしたブリティッシュ・フォーク系サウンドか或いは弾き語りフォークを連想するかもしれないが、(ジリアン・マクファーソン自身の音楽的ルーツは判らないのだが)ジャズやフォーク畑の多彩なゲスト陣の演奏に支えられた、軽やかでジャジーな木漏れ日系フォーク作品に仕上がっているのが特徴。ブリティッシュ・フォーク系作品によくありがちな、時間が止まったような古臭いトラッド臭は余り感じられないし、タイトルにもあるブルース臭も感じられない。バックの的確な演奏と流麗なメロディの相乗効果もあって、清涼感ある作品に仕上がっているのが特徴。日曜日の午後に丁度いい。ブリティッシュ・フォーク系ファンから長らく密かに愛聴されてきた作品であるが、英女性ヴォーカル物、女性SSW、ジャジーなソフト・ロックを好む人にもお奨めしたい。
サンディ・デニー、マディ・プライア、ジャッキー・マクシー、ヴァシュティ・バニアン、ブリジット・セント・ジョン、シェラ・マクドナルド、メリー・ホプキン、そしてメロウ・キャンドル、チューダー・ロッジ、スパイロジャイラのそれぞれの女性歌手達。ブリティッシュ・フォーク系サウンドを好む人にはそれぞれ、その方の”天使”がいると思うが、是非その中に今後はジリアン・マクファーソンの名前も入れて頂きたい。ジリアンの声質は古めかしいトラッド・サウンドには似合わないと思われるので、オーケストラ・アレンジメントでは定評のロバート・カービーの起用は功を奏したと言えるだろう。一部、コンテンポラリー過ぎて生粋の王道ブリティッシュ・フォーク・ファンには不向きな面もあるとは思うが、品の良いジャジーなメロディをバックにした控え目な女性ヴォーカル物を好む人は愛されるだろう。秀作。
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