#1184 Cold Blood / Thriller! (1973)
02. You Are the Sunshine of My Life
03. Feel So Bad
04. Sleeping
05. Live Your Dream
06. I'll Be Long Gone
07. Kissing My Love

http://www.myspace.com/coldbloodmusic
2007年4月、サン・フランシスコ出身のとある米ファンク・ロック・バンドが初めて日本の地を踏んだ。彼等の名前はコールド・ブラッド(Cold Blood)。コールド・ブラッドはサイケデリック・ムーヴメントの余波がまだ残る1960年代後半のベイエリアで産声を上げたバンドで1970年代前半を通じて音楽活動を継続したバンドだ。バンドの中心的存在はジャニス・ジョプリンばりの強力な歌声を得意とする女性ヴォーカリストのリディア・ペンス(Lydia Pense、1948年生まれ)。アルバムは6枚(当時)で、その何れもが米アルバム・チャートにランク・インしたが、デビュー作「Cold Blood」が23位を記録したのが最高で、後は100位以内が2枚、200位以内が3枚と、商業的にはお世辞にも成功したバンドとは言えなかった。そのバンドが2007年に日本にやってきた。彼等の近況は知らなかったのだが、どうやら1989年に復活を遂げて地道にライヴ活動を継続、2005年には1976年以来、実に29年ぶりとなる新作「Transfusion」を発表していた。
バンドの顔は今も昔もリディア・ペンス、という事で近年はリディア・ペンス&コールド・ブラッド名義で活動を継続しているらしいが、いずれにせよ、実力がありながらも商業的に成功しなかったバンド(しかも1977年から2004年の間、1枚もアルバムを発表していなかったにも関わらず)の初来日コンサートが実現してしまう日本。2007年4月に東京都千代田区にあるCOTTON CLUBで実現したらしいが、いずれにせよ彼等のような存在を招聘する日本の音楽プロモーターの眼力はまんざら捨てたもんじゃない。さて、このコールド・ブラッド、結成は1968年のサンフランシスコにて。バンドの設立者の一人、ギタリストのラリー・フィールド(Larry Field)が”Summer of Love”以降に立ち上げたバンドで、当初から才能溢れる女性ヴォーカリスト、リディア・ペンスを看板としてゴールデン・ゲート・パークやフィルモアでコンサート活動を展開してきた。そんな彼等の才能に目をつけたのが、フィルモアのやり手の大物プロモーター、ビル・グレアムだった。
ビルのレーベル時代はここまで。この後彼等はリプリーズに移籍、更に大幅なメンバー・チェンジを行って装いも新たに出直す事になったコールド・ブラッドは当時で言う所の”ニュー・ソウル”シーンの第一人者だったダニー・ハサウェイのプロデュースを受けて新作「First Taste of Sin」を1972年に発表する。ファンク・ロックやニュー・ソウル、ブラス・ロック入り混じった素晴らしい作品に仕上がったが、当時のリプリーズが真剣にプロモートしなかったどうかは知らないが、アルバムは全米で最高133位までしか上がらず。この後も「Thriller!」「Lydia」と作品を発表、この後移籍先のABCで「Lydia Pense and Cold Blood」を1976年に発表するが、いずれも成功を収める事は出来なかった。解散。この後の月日の経過を経て(この間リディアは育児に専念していたらしい)、上記で触れたように近年復活を遂げて音楽活動を精力的に継続しているとのこと。Dig Musicから発売されている「Transfusion」は彼等の最新作だ。他に「1973 Vintage Blood」というライヴ盤も存在する。
予断だが、リディア・ペンスの両親は父親がネブラスカ州出身のアメリカ人で母親はスペイン(マドリッド)出身の混血児。カリフォルニア州に引っ越してきたのが16歳の時で、暫くして彼女は Dimensions というバンドの一員として歌うようになる。当時から既に彼女のお気に入りはレイ・チャールズのようなR&Bだったという。どんな内容なのかは全く知らないが、彼女は1967年にソロ作品「Lydia」を発表した後の1968年にコールド・ブラッドに合流している。コールド・ブラッドは先輩格のエレクトリック・フラッグやブラッド・スウェット・アンド・ティアーズ、シカゴ、更に後輩格のタワー・オブ・タワーのような、ブラス(金管楽器)と黒人音楽をミックスさせたサウンドを真骨頂に音楽活動を展開してきたバンド。とうの昔に死語となってしまったが、1970年代当時は、こうした音楽を”ブラス・ロック”と称していたが、ホーン・セクションをロックのアンサンブルに導入する手法は同じでも、バンドによってベースとなる音楽は少々異なる。




■ Lydia Pense - Vocals
■ Michael Sasaki - Acoustic & Electric Guitar
■ Rod Ellicott - Bass, Brass Arrangement
■ Gaylord Birch - Drums, Brass Arrangement
■ Raul Matute - Keyboards, Brass Arrangement
■ Max Haskett - Trumpet, Background Vocals, Brass Arrangement
■ Skip Mesquite - Flute, Tenor Saxophone, Background Vocals
■ Peter Welker - Trumpet, Flugelhorn
■ Mel Martin - Flute, Saxophone, Baritone & Tenor Saxophone
■ Bob Ferreira - Flute, Tenor Saxophone
■ Bill Atwood - Trumpet, Flugelhorn
■ Pat O'Hara - Trombone
■ Rigby Powell - Trumpet
■ John Mewborn - Valve Trombone, Trumpet, Arrangement
■ Bennie Maupin - Bass Clarinet, Tenor Saxophone
■ Mike Andreas - Tenor Saxophone
■ Holly Tigard - Background Vocals
■ Pointer Sisters - Background Vocals
■ Tom Harrell - Brass Arrangement
■ Adam's Dad - Arrangement, Brass Arrangement
コールド・ブラッドはファンクやソウル、ブギなどのベースとした、ブルー=アイド・ソウル系ロック・バンド。ようするにR&B/ソウルといった黒人音楽が好きでたまらない白人連中による擬似ブラック・ミュージック・バンドだから、ヒッピー・カルチャーの中から生まれてきたサイケデリック・ミュージックの潮流とは直接関係のないバンドだ(勿論、若者達自身の手で新しい音楽の方向性を築こう、という意識向上をムーヴメントが彼等に芽生えさせた功績は否定出来ないだろう)。1960年代末~1970年代前半のサンフランシスコ・ベイエリアを代表するバンドとして活動を展開してきたバンドだが、リード・ヴォーカルのリディア・ペンスがジャニス・ジョプリンの歌い方や声質と似ている事、更にコールド・ブラッドの音楽がシカゴやタワー・オブ・パワーなどの同世代のブラス・ロック・バンドと似ている事から、活動当初から評論家などで、その類似性を指摘されてきたという。
そんな背景もあってか、ジャニス・ジョプリン・ミーツ・タワー・オブ・パワーといった、実に美味しい所掴み取りといった音楽形態を持っていたにも関わらず、現地での人気は兎も角、世界的規模の認知度を獲得する事が出来なかったのがコールド・ブラッド。だが、1990年代以降、1970年代のファンク・ミュージックが再評価される傾向もあってか、彼等のような存在も正当に評価されるようになってきた。さて、「Thriller!」は彼等の通算4作目に相当する作品で、ダニー・ハサウェイをプロデューサーに迎えた前作の翌年に当る1973年に発表された作品。母体バンドの New Invaders 時代からバンドに籍を置いていたオリジナル・ギタリストのラリー・フィールドに代わって前作からマイケル・ササキ(日系?)が参加、オリジナル管楽器隊3人に加え、8人の管楽器奏者がゲストとして参加している。更に『本物をゲストに迎えよう』と、ポインター・シスターズがコーラスで参加している。
ゴールデン・ゲート・パークやフィルモアでガツンガツンと演奏を展開していた時代とは異なり、リプリーズ移籍後は当時の時代背景としてニュー・ソウルと呼ばれる新世代のソウル・ミュージックが持て囃される気運もあって、コールド・ブラッドのサウンドもより洗練された都会的な響きを持つ音楽へと進化してきている。ダニ・ハサウェイ、スティーヴィー・ワンダー、マーヴィン・ゲイ、カーティス・メイフィールドをシーンの代表格とするニュー・ソウルはジャズやラテン、アフロなどの要素を盛り込み、歌詞に社会的なメッセージを込めて当時のリスナーに広くアピールする事に成功した音楽。黒人音楽ミーハーのローリング・ストーンズがいち早くニュー・ソウルのエキスを自作の中で取り上げたように、白人ロックの世界でも積極的にニュー・ソウルのエッセンスを取り込む輩も当時見られたが、ダニー・ハサウェイの直接的なプロデュースを受けていない本作でもニュー・ソウルの影響下にあるサウンドを堪能する事が出来る。
「Thriller!」はトランペット奏者のマックス・ハスケットの手による「Live Your Dream」を除けば、あとは他者の作品のカバー中心。従って彼等なりの個性を発揮する為には、黒人音楽を彼等白人達がどう料理するかに掛かっている。「You Are the Sunshine of My Life」はお馴染みスティーヴィー・ワンダーの有名作品のカバー。前年に発表されたスティーヴィーの作品を素早くカバーした事から、彼等が当時いかにニュー・ソウルに注目していたかが判る。ギターのカッティングから始まる「Baby I Love You」は1960年代のソウル歌手のカバー。ロック魂はあまり感じられないが、抑制の効いたグルーヴ感溢れるファンク・ナンバーに仕上がっている。更に、黒人歌手でありながら白人が作った曲を自己流にアレンジして歌ってみせてしまったダニ・ハサウェイの影響がここでも見られたか、本作でコールド・ブラッドはザ・バンドやボズ・スキャッグスの曲をカバーしてみせた。どちらも、『最初からリディアのレパートリーなのでは?』と錯覚させる程の堂々たる歌いっぷりだ。
エンディング「Kissing My Love」は日本ではグローヴァー・ワシントンJR.「Just The Two Of Us」での歌唱で知られるビル・ウィザーズの曲。取り上げた曲はビル・ウィザーズが「Thriller!」の前年に相当する1972年に発表した「Still Bill」収録曲。ビル・ウィザーズは30歳を過ぎてから大ブレイクを果たした遅まきの人だが、当時の旬だったビル・ウィザーズの曲をスティーヴィー・ワンダー同様、いち早く取り上げてカバーする姿勢から、黒人音楽命といった彼等の基本スタンスが透けて見える。全体的に言って、当時のニュー・ソウルの影響下にある作品なので、ロック色の強いサウンドを好む人には余りお奨め出来ないが、柔らか味とスムースな響きを尊重するエセ黒人音楽を好む人は愛聴されるだろう。リラックスした雰囲気はソウト・ロック・ファンにもお奨めしたい。ちなみに本作は2006年にボンバ・レコードより発売された紙ジャケットCDより。最終作を除く「Lydia」までの5作が市場で入手可能です。
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