fc2ブログ

#1186 Idle Race / The Birthday Party (1968)

 2007-09-29
01. Skeleton and the Roundabout
02. Happy Birthday
03. Birthday
04. I Like My Toys
05. Morning Sunshine
06. Follow Me, Follow
07. Sitting in My Tree
08. On With the Show
09. Lucky Man
10. Don't Put Your Boys in the Army, Mrs. Ward
11. Pie in the Sky
12. The Lady Who Said She Could Fly
13. End of the Road

The Birthday Party バースデイ・パーティ(紙ジャケット仕様)

私とジェフ・リンの初めての出会いは1970年代のある日、ラジオから流れてきた「Roll Over Beethoven」だった。この曲のオリジナルはチャック・ベリーで彼が1956年にヒットさせた曲。「ベートーベンをぶっとばせ」という物騒な邦題でも知られるこの曲はビートルズがカバーした事でも知られるロックンロール・ナンバーの定番曲の一つだ。何を隠そう、「Roll Over Beethoven」に初めて出会ったのは私の場合ビートルズ・ナンバーだったのだが、ラジオから流れてきたELOなる未知のバンドの「Roll Over Beethoven」には大変驚かされた。ギターのリフから始まるのではなく、♪ジャジャジャジャーン♪のイントロで有名なベートーヴェンの交響曲第5番から始まるのである。本当のベートーヴェンなのか、と思いきや、途中から耳に馴染んだロックンロールのリズムが飛び込んできた。なんじゃこりゃ。しかも曲の途中でも弦楽器が飛び込んでくるなど、それまで自分が全く耳にした事のないタイプの曲だったのだ。しかし、この1曲で私はELOなるバンドに魅了されてしまった。

オケや弦のアンサンブルに振り回される事なく、見事なまでにクラシック音楽のエキスをコントロールしてしまった世界で最初の男、ジェフ・リンはかつて世界最小のオーケストラとまで称されたエレクトリック・ライト・オーケストラ、略してELO (Electric Light Orchestra) のリーダーだった男。いや、ELO=ジェフ・リンと言っても事実上問題はないので、彼一人でもELOが名乗れるのだから、彼の気持ち次第でいつでもELOは活動を再開出来るのだが、今年の年末でジェフ・リンも還暦を迎える故、今後ELOが復活する可能性は極めて薄いといってもいいだろう。そのジェフ・リンだが、ELOのメンバーとしての活動もさることながら、ELO以前に彼が在籍していたバンドもブリティッシュ・ポップの歴史を語る際に避けては通れない重要なバンドであった事も知られている。そのバンドとはザ・ムーヴ。かつての盟友ロイ・ウッドを中心に1966年にバーミンガムで結成された5人組のバンド。前身バンド、なんて書くとなんだか成功物語前の無名時代の話みたいに感じられるが、実際にはELO程ではないが、当時の英国でそれなりの成功を収めていたのである。

ロイ・ウッド率いるザ・ムーヴは1968年から1972年までの間に幾つかのシングルとアルバムを発表しているが、1970年の時点でバンドを離脱したメンバーの代わりにある人物を招き入れている。ジェフ・リン(Jeff Lynne)だ。ジェフ・リンは当時アイドル・レースというバンドに在籍していたのだが、かねてからジェフ・リンの才能に目を付けていたロイ・ウッドの熱い要望を受けてアイドル・レースを抜けてまでザ・ムーヴに参加してしまった。ジェフ・リンは1947年、英バーミンガム出身。アイドル・レースは1966年にかつてロイ・ウッドも在籍していたマイク・シェリダンのバック・バンドの残党3人にオーディションを経て参加したジェフ・リンを加えた4人編成のバンド。参加当初からソングライティングの才能をメンバーから認められていたジェフ・リンをフロントにアイドル・レースは1967年に最初のシングル「The Imposters Of Life's Magazine / Sitting In My Tree」を、翌1968年には最初のアルバム「The Birthday Party」を発表する。

玄人筋からは高く評価されていたジェフ・リンをフロントとするアイドル・レースだったが、デビュー当初から商業的な成功を収めていたロイ・ウッド率いるザ・ムーヴとは対象的にアイドル・レースの市場での成績は芳しいものではなかった。1969年にもアイドル・レースは当時の所属レーベルであるリバティからシングル「Days Of Broken Arrows / Worn Red Carpet」「Come With Me / Reminds Me Of You」を発表、更に通算2作目となる「Idle Race」を当時まだ21歳だったジェフ・リンのプロデュースを受けて発表するも、結果はやはり前作同様芳しくない。アイドル・レースとは同郷バーミンガムのライバル的存在だったザ・ムーヴの度重なる成功に自分も、と藻掻き苦しむが、さぞやジェフ・リンは一般市場から認められない日々に鬱積を募らせていたに違いない。そんな苦悩の日々を送っていたジェフ・リンの元に人生の転機というべき新たな出来事が発生する。ザ・ムーヴからヴォーカリストの一人が脱退してしまったのだ。

ザ・ムーヴはスタート当初はロイ・ウッド(ヴォーカル、ギター)やビブ・ベヴァン(ドラムス)を中心とした5人編成のバンドだったのだが、途中でオリジナル・メンバーが離脱してしまうなど、1970年代の時点で3人編成のバンドになってしまい、バンド継続の危機が訪れてしまう。そこで、かねてからジェフ・リンの高い才能に目を付けていたロイ・ウッドはここぞとばかりジェフ・リンにバンド参加を打診する。これ以前にもロイ・ウッドはジェフ・リンを自らのバンドに引き連り込もうと計画していたのだそうだが、成功を収める気運すら感じられないアイドル・レースの将来性を見切り、ジェフ・リンは遂にザ・ムーヴに参加する事を決断する。かつてジョン・レノンは生前、『いくら素晴らしい作品を作っても大勢の人に聴いてもらえなくては意味がない』という趣旨の発言をした事があるが、ジェフ・リンもアイドル・レースよりも世間から注目される度合いの強いザ・ムーヴに移籍して自分の才能をより多くの音楽ファンに認めて貰いたい、という野心を抱いてアイドル・レースを後にしたのであろう。

アイドル・レース(紙ジャケット仕様)Idle Race/Time IsLooking OnMessage from the Countryエレクトリック・ライト・オーケストラ(紙ジャケット仕様)

■ Jeff Lynne - Vocals, Guitar, Piano
■ Dave Pritchard - Guitar, Vocals
■ Greg Masters - Bass, Vocals
■ Roger Spencer - drums, Vocals

ジェフ・リンを招き入れて解散の危機を免れたザ・ムーヴの話はさておき、大看板のソングライターを失ったアイドル・レースの残党3人(グレッグ・マスターズ、デイヴ・プリチャード、ロジャー・スペンサー)はバンド継続を決意、新たにマイク・ホプキンス(ギター)、デイヴ・ウォーカー(ヴォーカル、後にサヴォイ・ブラウンやフリートウッド・マックの活動に関与)の2人をジェフ・リン一人の代役に立てる事になる。ソングライターを失った新生アイドル・レースはマンゴ・ジェリーやホッド・レッグス(後の10cc)の曲をカヴァーした音源をリバティに残しているが、母国ではまともにリリースすらされなかった。その後アイドル・レースはリバティからリーガル・ゾノフォンに移籍して1971年に通算3作目となる「Time Is」を発表する。プロデュースはアイドル・レース自身とケネス・ヤング。新参のデイヴ・ウォーカーはバンドの為に自作の曲を提供するなどの活躍をみせるが、商業的な成功は収められずに失敗。バンドはこれを最後に解散してしまった。

ジェフ・リンの代役としてアイドル・レースに参加したデイヴ・ウォーカーはバンド解散後、キム・シモンズ一人を残してメンバーが大量離脱してしまったサヴォイ・ブラウンに参加するのだが、実はこの時代に結構な名声を獲得するのだが、今回の記事の趣旨とは外れてしまうので、それはまたの機会にしておいて、今回はアイドル・レースである。「The Birthday Party」は1968年に発表されたアイドル・レースの最初のアルバム。ジェフ・リン以外の、その他3人のメンバーはジェフ・リンがこの世界に飛び込む以前から音楽の世界でメシを食ってきた先輩格だが、3人はナイトライダーズ時代から親交のあったロイ・ウッドの才能に匹敵する若き才人ジェフ・リンの音楽的才能を高く買い、スタート当初からジェフ・リンをフロントに立てて音楽活動を展開する事になる。「The Birthday Party」は全13曲収録だが、その内11曲をジェフ・リンが手掛けるなど、当時若干20歳にして天賦の才能を発揮している。

プロデュースは Eddie Offord と Gerald Chevin。そしてアイドル・レース自身。”誕生パーティ”というアルバム・タイトルに沿った、イギリスのポップ・バンドのお家芸というか、伝統的な遺伝子を感じさせる内ジャケのセンス溢れるコラージュ写真がユニーク。アイドル・レースのメンバーを含め、70人以上の人々が誕生パーティの席に付いているという遊び心満点の写真を見て、ブリティッシュ・ロック・ファンなら誰もがビートルズの「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」を即座に連想するだろう。あちらのジャケも『これは誰、こちらは誰』というように、一人ずつの説明が付されていたが、実は「The Birthday Party」も同様なのだ。これはどうしても「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」を意識していると連想せずにはいられない。1968年と言えば、世はサイケデリック真っ盛りな時代であったのだが、アイドル・レース、いやさジェフ・リンは当初からビートルズ直系の本格的で正統派ポップ・ミュージックを目指していたのだろう。多分当時、『俺も「Sgt. Pepper's ~」みたいな作品を作りたい』、と切望していたに違いない。

広義な意味では恐らく「The Birthday Party」は所謂”サージェント・ペパーズ・シンドローム”の解釈にも当て嵌まる作品であろう。実験的でありながら流れてくる音楽は極めてカラフルでポップ。アルバムはシングル曲の寄せ集め、という過去の概念を覆してアルバムを一個のトータル作品として聴かせてしまう「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」は当時、音楽の世界に革命を齎したが、本作もそうした志を胸に抱きながら制作された作品であると言える。後にロイ・ウッドの抜けたELOを一人で引っ張って世界的な成功を齎したり、或いは解散後の巧みなプロデュース業や元ビートルズのメンバーの作品への関与などで、世のポップ・ミュージック・ファンの熱い支持を獲得する事になる”一人レノン/マッカートニー”ジェフ・リンはビートルズの遺伝子を引き継ぐ最大にして最高の後継者との名誉ある称号を獲得するに至るのだが、彼の原点である「The Birthday Party」でその片鱗が早くも確認出来るのがなんとも楽しいではないか。

今だサイケデリック・ミュージック華やかな1968年に発表された作品だが、同時代における流行を悪戯に追い掛ける事なく普遍的で良質なメロディに比重を置いた作品である事により、発表から約40年を経過した今尚、色褪せる事なく聴く事が出来るのだ。良質なメロディの合間合間に見られる古き懐かしき時代のミュージカルを彷彿とさせるアレンジにボンゾ・ドッグなど、裏ビートルズ系サウンドからの影響が感じられるのもいい。兎に角、どこをどう切ってもビートルズからの影響を強く感じさせる金太郎飴アルバム。オケの導入もあるが、クラシックとロックの融合という大それたレベルではなく、オケの使い方までそう、まるでビートルズ風。サイケ時代のアルバムだが、”クスリ”の匂いは全くといって良い程感じられない。イギリスのアーティスト達はクスリでラリって非生産的な日常を繰り返す米国のヒッピー連中に批判的な見方を持っていた人も少なくなかったというから、本作からアシッドな香りが全くと言っていい程感じられないからといって、それは特段不思議な事ではないのだ。
関連記事
FC2ブログランキング人気blogランキングへにほんブログ村 音楽ブログへブログランキング【くつろぐ】参加中
コメント












管理者にだけ表示を許可する
トラックバック
トラックバックURL:
http://cottonwoodhill.blog21.fc2.com/tb.php/3339-53ec9a5b
≪ トップページへこのページの先頭へ  ≫
FC2カウンター

プロフィール

はじめに

Author:Cottonwoodhill
未確認・不確定な事でも堂々と書いてしまう無責任洋楽ブログ。根は洋楽ミーハーCottonwoodhillは感覚派B型人間なので記事の整合性が欠ける場合多々有り。過去の記事への不快なコメントなどは問答無用で削除します。

RSSフィード
CalendArchive

最近のアルバム評
Powered by 複眼RSS

最近のアルバム寸評

今日のBGM
ゼン・プレイ・オン(紙ジャケット SHM-CD)

最近のコメント
最近のトラックバック
LIVE TRAFFIC MAP
Myスカウター

スカウター : Cottonwoodhill 別別館

FC2検索

タグランキング

トラックワード
FC2 SEO リンク
FC2 アクセスランキング

TopHatenar

フィードメーター
フィードメーター - Cottonwoodhill 別別館
あわせて読みたいブログパーツ

ブログ通信簿

サイト価格ランキング


サイト売買のサイトストック

アクセスランキング
[ジャンルランキング]
音楽
176位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
洋楽
23位
アクセスランキングを見る>>

フリーエリア
  1. 無料アクセス解析