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#1207 Boomerang / Boomerang (1971)

 2008-01-01
01. Juke It
02. Fisherman
03. Hard Times
04. Mockingbird
05. Cynthia Fever
06. Brother's Comin' Home
07. The Peddler

Boomerang

ブーメランと言えばあれだ、手で投げて飛ばした後に手元に帰ってくる棍棒の一種。昭和30年代生まれの私だと、子供時代にブーメランの玩具を買った記憶があるが、子供用の玩具だとちゃんと手元に戻ってこない。ちなみに調べてみるとブーメランの歴史はオーストラリア大陸の先住民アボリジニの時代まで遡るそうだ。弓や銃のない時代だから当然の事ながらブーメランのようなものがなければ空を飛ぶ鳥や遠くの獲物を狙う事は出来ない。人類史上、初めてブーメランの原理を見つけた人間は本当に凄いと言わざるをえないが、弓や銃の登場など、時代が進むにつれて当然の事ながらこんな非効率な道具は姿を消してしまうのだが、近年はカラフルなスポーツ・ブーメランに姿を変えて生き残っているのが現状だ。手元から離れてしまってもいつか必ず自分の手元に戻ってくる、そんなブーメランの原理を自身の立場に置き換えたいと思う人はいつの時代でもいるもので、ロック界においてもブーメランと名乗るバンドは幾つか存在したのだ。

ネットで調べてみるとメタル、ジャズ、エレポップ、ユーゴのロック・バンドなど、これまでブーメランと名乗る幾つかのバンドに遭遇するが、今回取り上げるバンドは1970年代初頭の一時期に存在していたアメリカのハード・ロック・バンド。ヴァニラ・ファッジ(Vanilla Fudge)のオリジナル・メンバーによって結成された由緒正しき血統書付きのバンドである。まさか知らない人はいないと思うが、1966年に結成されたヴァニラ・ファッジは1967年に「You Keep Me Hangin' On」のシングル・ヒットを飛ばして一躍時代の寵児となったバンド。オリジナルはシュープリームスの曲だったのだが、サイケデリックの申し子ヴァニラ・ファッジは時代さながらの大胆なアレンジを施して世間の度肝を抜く。40年位前が青春時代だった世代の人にとっては特別な存在だったのだ。アメリカ発アート・ロックの代表的存在として彼等はアイアン・バタフライなどと共に当時の若者の関心を大いに惹いたのだが、1969年には失速して翌1970年に正式解散を遂げてしまう。

ヴァニラ・ファッジのオリジナル・メンバーはヴィンス・マーテル(ギター)、マーク・スタイン(リード・ヴォーカル/キーボード)、ティム・ボガード(ベース、ヴォーカル)、カーマイン・アピス(ドラムス)の4人。この内リズム・セクションの2人、ティム・ボガードとカーマイン・アピスの名前は余りにも有名だ。ロック・ファンで彼等の名前を知らぬ人はまさかおらぬまいが、彼等2人はヴァニラ・ファッジ活動期間中からロック3大ギタリストの一人ジェフ・ベックに目を付けられていた存在。ヴァニラ・ファッジ解散後(実際には1969年時点で既にバンドは崩壊状態だった)、ジェフ・ベックの怪我というロック・ファンなら誰でも知っている有名なアクシデントを乗り越えてティム・ボガードとカーマイン・アピスはカクタスを結成して1970年に名ハード・ロック作品「Cactus」を発表する。で、残された2人の内、リード・ヴォーカルとキーボードを担当していたマーク・スタインはカクタスには流れずに自らのバンド、ブーメランを結成するのだった。

1969年の「Rock & Roll」を最後に解散してしまったヴァニラ・ファッジの音楽面における最大の貢献者の一人であるマーク・スタインは『ソロ作品を作ってみないか』、というアトランティック・レコーズのアーメット・アーティガンのオファーを断って(ああ、もったいない)自らのバンド、ブーメランを結成するのだ。リズム・セクションの2人は紆余曲折の末、カクタスを結成するのだが、カラフルなキーボード・サウンドを真骨頂とするヴァニラ・ファッジの音楽性から連想するに、キーボード奏者のマーク・スタインとすれば自分こそヴァニラ・ファッジそのもの、という強い思いを描いていた筈で、自分一人でもいれば立派にバンドは構築出来るという強い自負心を当時持っていた筈。ティム・ボガードとカーマイン・アピスと袂を別つ形でブーメランというバンドを結成したのもそんな胸の内があったに違いない。(注;「While The World Was Eating Vanilla Fudge」というアルバムが1970年に発表されているが、これはヴァニラ・ファッジのプレ・バンドの発掘音源集。

ブーメランのメンバーはマーク・スタインの他、ヴァニラ・ファッジのファンだったというNY出身の James Galluzi(ドラムス)と Jo Casmir(ベース)の2人、そしてギター担当には当時まだ10代だったという Rick Ramirez(当時は Richard Rameriz 名義、後にストライカーやブルーザーといったバンドに加入)、以上4人構成。RCAと契約を結んだ彼等はサイケデリック/アート・ロックの終焉やレッド・ツェッペリンを初めとするブルース・ベースのハード・ロック・サウンドの台頭という風向きを敏感に感じ取ってヴァニラ・ファッジ時代とは異なる渋いハード・ロック・サウンドで勝負に出る事となる。ならば最初からティム・ボガードとカーマイン・アピスと一緒に活動すればよかったのに、と言った所で今更どうかなるものではないのだが。さて、ブーメランのデビュー作「Boomerang」はカクタスのデビュー作よりは遅れたものの1971年に大手レコード会社から無事発表。マーク・スタインにしてみれば期待と不安の入り混じった発表だったに違いない。

『おいおい、これがデビュー作のジャケかよ』『これなら半裸の女性の写真でも乗せた方がまだましだ』と当時多くの人が思ったかどうかは定かではないが(個人的にはこういうセンス大好きだけどね)、カイリーとブーメランを両手に持つオーストラリア先住民のイラストではハード・ロック・アルバムのジャケットとしてはなんとも格好悪い。カクタスのデビュー作は全米で最高54位とまずまずのスタートを見せたのとは対照的に、ブーメランの反応はイマイチ。これじゃ、ブーメランじゃないよ、手元に戻ってこないカイリーじゃないのか、と、当時マーク・スタインが思ったかどうかは判らないが、バンドを継続させる意欲は急速に減退。とりあえずブーメランは2作目に相当する作品を制作したそうだが、実際にそれは発表されずにバンドは消滅してしまう。その後マーク・スタインの名前が登場するのは悲劇のギタリスト、トミー・ボーリン(Tommy Bolin)のバック・バンドの一員としてだった。

Teaser」に続くトミー・ボーリンのソロ第二弾「Private Eyes」(1976年)にマークはトミー・ボーリン・バンドの一員として参加。なお、このバンドの貴重なライヴ音源は今では Tommy Bolin Archives というサイトから入手可能。「Live at Ebbets Field 1976」「Live at Northern Lights Studio 9/22/76」で当時のマークの演奏を聴く事が可能なようだ。この後ご承知の通り、トミー・ボーリンは急死。その後マークはデイヴ・メイスンやレス・デュークの作品に参加した後、1984年のヴァニラ・ファッジ再結成に辿り着く。「Mystery」は当時の再結成アルバムで1960年代当時のオリジナル・メンバーが勢ぞろいした他、当時のバンド崩壊の引き金となったジェフ・ベックが『そんな事昔のことさ』と言ったかどうかは定かではないが、変名でいけしゃあしゃあと参加している。その後もヴァニラ・ファッジは何度か再結成を繰り返しているが、その度にマーク・スタインが参加しているかは不明。尚、2003年に彼は「White Magik」というソロ作品を発表している。

キープ・ミー・ハンギング・オンThe Beat Goes OnRenaissanceカクタス(紙ジャケット仕様)Private Eyes

■ Richard Ramirez - Lead, Rhythm & Acoustic Guitars
■ Jo Casmir - Bass, Vocals
■ James Galluzi - Drums, Percussion
■ Mark Stein - Organ, Piano, Vocals

さて、「Boomerang」は1971年に発表されたブーメラン唯一の作品。ブーメランというバンド名とは正比例するが如く、市場に放たれながらも成功を収められなかったアルバムだが、ハード・ロック・アルバムとしては内容はそう悪くない。収録は全部で7曲。1曲を除き、マーク・スタインの名前が(他のメンバーとの競作曲を含め)記載されている。他にアルバム未収録曲として「Montreal Jail」というハード・ロック・ナンバー(シングルのB面曲)が存在する。プロデュースはメンバー自身の手によるもの。録音はNYにあるRCAのスタジオにて行なわれた。簡単に順を追って紹介してみたい。「Juke It」はのっけから本作品のレベルの高さを物語るヘヴィなブルース・ハード・ロック。デヴィッド・カヴァーディルを思わせる迫力溢れるヴォーカルとブーメラン参加以前にさしたるキャリアを持たなかった他の3人の実績を考えると出来過ぎとも思える逸品。「Fisherman」はマークの単独曲。ピンク・フロイドを思わせる侘寂の効いた哀愁溢れるメロディが印象的。

「Hard Times」はアコギとハモンド・オルガンの音色を巧く生かしたブルース仕立てのブギ・ロック。ギターの逆回転はご愛嬌。個人的にも大変気にいったナンバー。「Mockingbird」はシングルとしてもリリースされた渋い曲。メディアム・テンポのブルージーなハード・ロックにゾクゾクする。記事を読んでいる方は是非、所謂『おお、これいいじゃん』といった音に出会った時の空気を感じ取って欲しい。「Cynthia Fever」はメンバー全員の共作曲。ヴァニラ・ファッジのリード・ヴォーカルを担当していたマーク・スタインの迫力ある歌声は勿論、ベーシストの Jo Casmir の歌のパワーも凄まじい。彼だけでも充分にリード・ヴォーカルが務まるレベルだ。ディープ・パープルやレッド・ツェッペリン、ブラック・サバス、ユーライア・ヒープといった一級品と比較しても負けないだけのレベルにある曲と言えよう。こりゃ凄い。「Brother's Comin' Home」はマークのクラシカル&ファンタジーなキーボード演奏とオケのバランスが素晴らしいバラード・ナンバー。

「The Peddler」はアルバムの最終曲。これもデヴィッド・カヴァーディル擁するディープ・パープルといった雰囲気を醸し出す一級ハード・ロック。第3期ディープ・パープルの始まりが1973年なのだから、彼等の方がずっと早いのだ。これで簡易レビューはお終い。キーボード&リーダーのマーク・スタインはヴァニラ・ファッジの中心人物だからキーボードの演奏の力量やヴォーカリストとしてのレベルは問題ないとしても、当時15歳(本当かい?)と言われていたギタリストの力量もハード・ロック系ギタリストとしても水準以上のレベルといっていい。更にNY出身のリズム・セクション部門の2人もマークのかつての相棒のレベルを思い起こさせる鉄壁のレベル。カクタスに負けていない。負けているのはジャケ位か。ヴァニラ・ファッジはアトランティック・レコーズ系列のアトコ・レコーズに籍を置いてデビューから最後の作品までアトコに面倒を見てもらい、解散後もティム・ボガードとカーマイン・アピス率いるカクタスは引き続きアトコに身を寄せる事になった。

マークに対してもアトランティック・レコーズのアーメット・アーティガンがオファーを出している。もし仮に契約を果たしてロック・レーベルとして既に当時成功を収めていたアトコと契約を果たしてブーメランをアトコ経由で発表していれば事態は恐らく変わっていた筈である。いや、そうに違いない。ジャケのダサさとは裏腹に内容は一級なのだら余計に当時の状況が恨めしく感じられてしまうのである。あのヴァニラ・ファッジが生んだ2つの兄弟バンド、カクタスとブーメランという具合にね。だが、時代は彼等に味方しなかったようである。彼等の当時の契約元のRCAレコードにしてもそうだ。RCAレコードがアメリカ出身のロック・アーティスト、ルー・リードで成功を収めるのが1972年以降だから、ブーメランの登場はほんの少し歯車が噛合わなかったのだ。いずれにせよ、そんじょそこらのブリティッシュ・ハード・ロックよりもブリティッシュ・ハード・ロックらしい当作品、その手のサウンドが好きな方なら是非1度はご視聴願いたい。


Vanilla Fudge Home Page
Mark Stein Home Page
VINCEMARTELL.COM
Carmine Appice - Intro
www.timbogert.com
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