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#0819 Billy Paul / 360 Degrees of Billy Paul (1972)

 2004-03-27
1. Brown Baby
2. I'm Just a Prisoner
3. It's Too Late
4. Me and Mrs. Jones
5. Am I Black Enough for You?
6. Let's Stay Together
7. Your Song
8. I'm Gonna Make It This Time

360 Degrees of Billy Paul

1970年代前半のソウル・ミュージック・シーンを席巻した黒人音楽の中心地の一つでもあったフィラデルフィアを発祥地とするフィラデルフィア・ソウル(通称フィリー・ソウル)。その中心的な役割を担っていたプロデューサーのケニー・ギャンブル(Kenneth Gamble)、レオン・ハフ(Leon Huff)が設立した黒人音楽レーベル、フィラデルフィア・インターナショナル・レコーズ(PIR)の記念すべき最初の全米1位シングル(ポップ・チャート&ブラック・チャート)を生み出したのが米ペンシルヴェニア州フィラデルフィア出身のR&B歌手ビリー・ポール(Billy Paul)でした。

マーヴィン・ゲイやスティーヴィー・ワンダー、ダイアナ・ロスなどの黒人スーパースターを生み出したモータウン・サウンドに憧れながらも、自分達のソウル・ミュージック・シーンを自分達の街から生み出そうとギャンブル&ハフはFMラジオなどに積極的にプロモーションを行うなど奔走、そのお陰でオージェイズやハロルド・メルヴィン&ザ・ブルー・ノーツ、ビリー・ポール、スリー・ディグリーズ(遠い昔、スリー・ディグリーズが日本の音楽祭の為に来日した時の出演シーンを覚えている人も多いでしょう)などの人気アーティストを輩出する優良レーベルの一つにまで上り詰めます。
フィラデルフィアを発祥地とする黒人音楽は黒人音楽の世界だけでなく、《地獄の使い》アリス・クーパーのような場違いなアーティストから、エルトン・ジョンやデイヴィッド・ボウイのような英国のアーティストにまで影響を及ぼしました。エルトン・ジョンは著名な女子テニス・プレイヤーだったビリー・ジーン・キング夫人(覚えている人は40歳以上でしょう)と彼女のチーム、フィラデルフィア・フリーダムズの為に「Philadelphia Freedom」というフィリー・ソウルの香りを感じさせる曲を提供、またデイヴィド・ボウイはグラム・ロックの衣を突如脱ぎ捨て、フィリー・ソウルのフレーバー溢れる「Young Americans」というアルバムを1975年に発表、当時のブリティッシュ・ロック・ファンを仰天させたものです。

こうした逸話から、フィラデルフィアを発祥地とするソウル・ミュージックが当時どれだけ音楽の世界で持て囃されたのか伺い知る事も出来るのでしょうが、まずはやはり当時の音楽作品を聴くのが早道でしょう。1970年にCBS/コロムビアの傘下レーベルとして設立されたフィラデルフィア・インターナショナル・レコーズにとって最初の全米シングル1位を獲得したビリー・ポールの作品を取り上げるとします。日本でも彼の作品はCMなどで積極的に起用された事があるので、名前は知らなくても歌の旋律は脳裡に焼き込まれている、という人も結構多いかもしれません。

1934年12月生まれのビリー・ポールは母親がジャズのレコード・コレクターだった影響もあってか、少年時代はジャズ・ヴォーカリストを目指して音楽活動を展開していたそうです。のちに本格的に音楽を勉強する為、ウェスト・フィラディルフィア音楽学校やテルプル大学に通学します。1950年代には晩年のチャーリー・パーカーやジョン・コルトレーンなどとも知り合っていたそうです。1950年代の後半から既にジャズ・シングルを吹き込むなどの音楽活動を展開していたそうですが、成功には至らず、ビリー・ポールの名前を一般の音楽ファンが知るには、10余年の時を待たなくてはなりませんでした。

そんな時に出会ったのが、ビリー・ポール同様フィラデルフィア出身でビリーの9歳年下の旧友ケニー・ギャンブルでした。その後ビリー・ポールは旧友ケニー・ギャンブルがレオン・ハフと共に設立したギャンブルというレーベルと契約して新作の為にレコーディングを行いますが美味くいかず、その後ギャンブル&ハフがチェスの傘下に新たに設立したレーベル、ネプチューン(Neptune)から晴れて最初のアルバム「Ebony Woman」(ブラック・チャートで最高12位を記録)が発表されています。タイトル・ソングはビリー・ポールが1959年に発表した不発シングル。その後、全米規模の展開を企てるギャンブル&ハフはCBS/コロムビアの元、フィラデルフィア・インターナショナル・レコーズを設立、ビリー・ポールも移籍しています。

移籍第一弾となるアルバム「Going East」(1971年)を経て1972年に発表されたのが、ビリー・ポールの一大出世作「360 Degrees of Billy Paul」。シングル「Me And Mrs. Jones」は全米シングルのポップ・チャート&ブラック・チャート共に1位を記録、アルバム「360 Degrees of Billy Paul」もブラック・チャートで堂々の1位を記録、ポップ・チャートでも17位に食い込むなどの成功を収める事になります。ビリー・ポールが持つジャズ・フレーバーとギャンブル&ハフによるメロウでロマンティックな大人向けのR&B/ソウル・ミュージックの融合が世間に認められた瞬間でした。

これ以降、「War of the Gods」「Live in Europe」「Got My Head on Straight」「When Love Is New」「Let 'Em In」「Only the Strong Survive」などのアルバムを1970年代を通じて発表、フィリー・ソウルを代表するソロ・アーティストとして、ソウル・ミュージックを代表する実力派として活動してゆく事になりますが、肥大化したアメリカの音楽産業に異変が起こるに従い、ビリー・ポールの名前もヒット・チャートから姿を消していく事になります。もっとも、ビリー・ポールは元々クラブなどで大人向けのジャズを歌うクラブ歌手出身。1988年のアルバム「Wide Open」からチャートからは遠ざかっていますが、本人にとっては然程大きな問題ではないのでしょう。

■ Billy Paul - Vocals
■ Bunny Sigler - Guitar
■ Roland Chambers - Guitar
■ Bobby Eli - Guitar
■ David Bay - Guitar
■ Norman Harris - Guitar
■ Anthony Jackson - Bass
■ Ronnie Boker - Bass
■ Norman Farrington - Drums
■ Earl Young - Drums
■ Eddie Green - Piano
■ Leon Huff - Piano
■ Vince Montana - Vibraphone
■ Lenny Pakula - Organ
■ Larry Washington - Conga

日本でも御馴染みの定番ソング、「Me And Mrs. Jones」を含むビリー・ポールの出世作であり、フィリー・ソウルの存在感を世界中に知らしめた成功作。収録曲は8曲でトータル45分程度。ギャンブル&ハフが書き上げたオリジナル曲に混じり、キャロル・キング「It's Too Late」、エルトン・ジョン「Your Song」、アル・グリーン「Let's Stay Together」などの有名ソングが取り上げられています。タイトルは《ビリー・ポールの360度》。既存のブラック・ミュージックのフォームを超えた変幻自在のサウンドを意味する意図があったのかもしれません。ならば、裏ジャケにもステージで歌うビリー・ポールの写真など掲載せずに表ジェケットと同じものを採用すべき。それでこそ《360度》でしょう。

ビリー・ポールにとって最大のヒット・アルバム。フィラデルフィアを本拠地としたフィリー・ソウルの旗手として活躍したビリー・ポールは以前はジャズ歌手としての下積み時代を長年過ごした事もあるヴォーカリスト。ジャズの素養を持つヴォーカリストとモータウンに憧れながらも、モータウンとは違う新しい時代のソウル・ミュージックを目指していたプロデューサーのギャンブル&ハフによるアダルト仕様のソウル・サウンドとが融合したフィラデルフィア・ソウル。また、ある意味スムース・ソウルやクワイエット・ストームといったアダルト仕様のソウル・ミュージック誕生の先駆けともなった作品と言えるかもしれません。

スムース・ソウルやクワイエット・ストームといったジャンルのサウンドは旧来のソウル・ミュージックが力強さや魂を揺さぶる様な情熱性を全面に押し出していたのとは対象的に流麗なストリングスの導入や流れるようなジャジーなメロディ、またはポップで親しみ易いメロディを全面に押し出しているのが特徴。さて、代表作にも注目する事に致しましょう。『僕とミセス・ジョーンズ、2人秘密を持っている。よくない事はわかっている』、という歌詞が示すように「Me And Mrs. Jones」は不倫をテーマとしたソウル/ジャズ・バラード。男女の秘め事を官能的に歌うビリー・ポールの声は歌詞の内容やメロディによく似合う。よく聴けばどうってことのない佳曲だと思うのですが、本曲を歴史に残るバラードにまで高めているのは、一重にジャズの素養を持つビリー・ポールのスケールの大きさのお陰でしょう。同年のグラミー賞受賞作品。

本作には有名なアーティストのカバー曲も取り上げられています。《僕の歌は君の歌》の邦題でも有名なエルトン・ジョンの「Your Song」。自身のピアノ演奏をバックに切なく歌われるエルトン初期の代表作が流麗なストリングスを加えられて甘口のエレガントなソウル・バラードへと変貌しています。そしてキャロル・キングの「It's Too Late」。女性ヴォーカル物の頂点に立つ傑作アルバムに収録されている定番カバー・ソング。数多く聴かされてきた曲ですが、原曲がアダルト・コンテンポラリーな要素を内包している歌だけに「Your Song」程には違和感を感じないアレンジ。こんな事から本作を世間に蔓延るロック・ミュージックにうんざりしていたリスナーが購入に走った事も想像に難くない。リアルな歌詞も米国のアダルト層に受けたのでしょう。

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