#1347 Doctor Downtrip / Doctor Downtrip (1973)
02. Walking In The Desert
03. Wanted
04. Lost City
05. Anything Goes
06. Better Run Away
07. Everything Around
08. Big Blue Train
09. Feeling Good Again

タイトルを見て一瞬、『あれえ、Doctor Nerve の新作か、なんとまあそっけないジャケットだこと』と勘違いしてしまったが、Doctor Nerve ではなく Doctor Downtrip(ドクター・ダウントリップ)。後に単にダウントリップ(Downtrip)と改名もしているが、このバンドはベルギーのバンドである。ベルギーというと個人的にはプログレッシヴ・ロック、特にRIOムーヴメント以降のチェンバー・ロックやアヴァンギャルド・ロック路線の音楽、例えばジュルヴェルヌ、ユニヴェル・ゼロ、X-legged Sally といった面々を想像してしまうのだが、このドクター・ダウントリップなるバンドはブルースをベースにしたロック・バンドらしい。ベルギー、ベルギー王国は西ヨーロッパに位置する連邦立憲君主制国家で日本と同じエンペラー(日本は天皇、ベルギーは国王=現アルベール2世国王)がおられる国である。日本の皇室とベルギーの王室との関係は極めて良好で二国間の関係も友好的。
ベルギーの有名な文化人は? と問われて私の様な貧相な知識しかない人間でも頭に浮かぶのがルネ・マグリット。初期ジェフ・ベック・グループのアルバム・ジャケットに起用されていたから大概のロック・ファンでも知っている。映画ファンなら過去、カンヌ国際映画祭パルム・ドールを2度受賞した実績を持つジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟。出身はベルギーだが後にイギリスに渡ったオードリー・ヘプバーン。アクション映画好きならジャン=クロード・ヴァン・ダム。ロックの世界ではどうだろうか。日本でイギリス以外の欧州ロックが本格的に紹介されたのは遅く、1970年代に日本でレコードが発売されていたのは数知れず。イタリアはまあ別としてもドイツやフランスといった国のロックでさえそれ程多くは発表されておらず、現在名盤・優秀作品と称されているアルバムの大半は1980年代以降になってから日本で紹介されたものが多いと思う。ベルギーにしてもそうだ。1970年代にベルギー産のロックなんて熱心に聴いていた一般素人ってそれ程多くない筈である。
ドクター・ダウントリップ。結成は1969年頃。1973年のアルバム発表時点でのメンバーは Jean-Paul Goosens(ヴォーカル)、Michael Heslop(ギター、ヴォーカル)、Serge Paul(ギター)、John Hastry(ベース)、Paul van der Velden(ドラムス)。この5人のうち、ギタリストの Michael Heslop は Burning Plague という、やはりベルギー出身のロック・バンドの出身者。この Burning Plague なるバンドは1969年に結成、1970年にCBSから「Burning Plague」というアルバムを発表しているものの、1971年に崩壊(1990年代にアルバムが存在するが、これはオリジナルメンバーとは異なる編成で再結成されたバンドによるものらしい)。ドクター・ダウントリップは1970年に首都ブリュッセルで開催された音楽祭に登場、当時既に1960年代の残り香的なサウンドとは決別したハード・ロック・サウンドに挑戦していたらしい。1970年の終盤には Burning Plague からギタリストの Michael Heslop が合流。
Michael Heslop が合流した当時のドクター・ダウントリップの編成は Michael Heslop、Michel Rorive(ヴォーカル)、John Hastry、Paul van der Velden、Sylvain Paul(オルガン)という布陣。彼等の最初のレコードは1970年にフランスの Disques Vogue というレーベルから発表された「Gravitation / Music for Your Mind」。ジャケ写真を見ると写るのは4人。なので恐らく Burning Plague から Michael Heslop が1970年終盤に参加する以前に吹き込まれたものと推察する。この次のレコードを発表する機会には直ぐに恵まれなかったようだが、ゴールデン・イアリングやジェネシスのサポート・アクトを務めるなど、成功を夢見て地道なコンサート活動を展開していたのがアルバム発表以前の彼等の姿だった模様。そんな彼等もようやく次なるレコードを発表する機会に恵まれた。第二弾シングルは「Take My Place / Depressed」。1972年に発表された。大手CBSからの登場である。
■ Jean-Paul Goosens - Lead vocals
■ Michael Heslop - Guitar, Vocals
■ Serge Paul - Guitar
■ John Hastry - Bass
■ Paul van der Velden - Drums
1973年にはシングル「Jumpin' in the Air / Winter's Coming」、そして待望のフル・アルバム「Doctor Downtrip」が発表された。アルバム発表時点でリード・ヴォーカルは交代、そしてオルガニストの代わりに2人目のギタリストが参加している。このメンバー編成で暫く活動を継続していた模様だが、ハード・ロック・スタイルの音楽が下火になりつつあった1975年終盤に Michael Heslop と Serge Paul という2人のギタリストが脱退。彼等の代わりに Lagger Blues Machine(1969年結成、1975年解散)というバンドから José Cuisset というギタリストが参加。この交代劇がキッカケとなったのか、バンドは新たにダウントリップ(Downtrip)と改名、1976年「If You Don't Rock Now」、1979年「Downtown」という2枚のアルバムを発表した。だが、クラシック・ロック路線の音楽スタイルを引き摺る彼等の様な連中の時代は既に過ぎ去っていた。こんな訳でドクター・ダウントリップ~ダウントリップの時代は終わりを遂げる。
これまで散々書いてきたが、1970年代といえば2度のオイルショックが世界中の社会や経済に多大な影響を及ぼした時代で、ロックの世界に身を置く連中の懐事情にも大きな影響を及ぼした時代だった。実力がありながらアルバム1枚で消えてしまった、或いは数年の活動で消えてしまったバンドが数多く存在した時代にあって、兎に角彼等はドクター・ダウントリップ~ダウントリップを通じて1970年代を通して駆け抜けた。これは評価していいだろう。2つのバンドを通じてアルバム3枚。まあ当時は現地でも恐らく売れなかったと思うが、長く続けた事だけは高く評価したい。さて、前置きは兎も角、「Doctor Downtrip」の紹介に移ってみる。発表は1973年。1969年の結成当時からためこんでいた彼等の大事なオリジナル曲を中心にしたアルバムだった事は容易に想像が付く。1973年と言えばイギリスのハード・ロックやプログレッシヴ・ロックの大御所達が優れたアルバムを発表した時期で彼等の多くが1973年、及びその時代の前後に全盛期を迎えている。
そんな時代に彼等、ドクター・ダウントリップはデビュー作品を発表した。悪くはない。少々根暗なリズム・セクションが特徴のマイナー調ブルージー・ハード・ロックだがデビュー作品発表まで数年に渡る地道な活動を展開してきたバンドらしく、演奏技量は極めて高い。冒頭「Nothin’s The Same / Free Morning Time」はそんな彼等の力量を図るのにはもってこいのナンバー。ギター、そしてベース&ドラムスの演奏技量はデビュー作とは到底思えない程だが、どことなくB級な雰囲気が漂うのが致命的。「Walking In The Desert」はどことなくステイタス・クォーを彷彿とさせる様なハード・ブギ。「Wanted」はブラック・サバスばりのヘヴィ・スタイル・ハード・ロック。「Lost City」では2人のヴォーカリストが登場。ギターの音色も眩しいサウンドだが、いかせん《いかにもクラシック・ロック》風のサウンド。ハード・ロックやプログレッシヴ・ロック、グラム・ロックの実力者達が超一級のロック・アルバムを世に発表した1973年という事実を背景に「Doctor Downtrip」を聴いてしまうと『もうちょっと早くアルバムを発表させてあげたかった』という気持ちになってしまうのは私だけだろうか。
「Anything Goes」はポップなフィーリングが加味された、いかにも1970年代といった古めかしいクラシック・ロック。ここまで書いてきて彼等がイギリスのバンドではなくベルギーのバンドであった事を忘れそうだった。ロックの本場イギリスに憧れ、ブリティッシュ・ロックらしいサウンドを彼等なりに追い求めた結果がこれなのだろうが。この後も「Better Run Away」「Everything Around」「Big Blue Train」といった佳曲が続く。彼等は大作志向のバンドではなかったようで、どれもこじんまりとした曲が並ぶのだが、これは! といったインパクトに欠けるのが彼等の欠点。曲そのものはどれも悪くないだけに残念といえば残念。「Feeling Good Again」はエンディング曲。終始一貫、どの曲も手数の多いドラミングが堪能出来るのだが本作も同様。B級ロック・アルバムによくありがちな、埃っぽい録音状態が残念だ。これでも24Bitデジタル・リマスターなんだけど。以上。
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