#1390 Cheer-Accident / Fear Draws Misfortune (2009)
02. Mescalito
03. And Then You Realize You Haven't Left Yet
04. Blue Cheadle
05. Disenchantment
06. The Carnal, Garish City
07. According to the Spiral YOUTUBE
08. Humanizing the Distance
09. Your Weak Heart

結成が1981年という事だから今年で結成30周年を迎える事になる、ロックの世界では既にベテランの域に到達しているバンドを紹介するのだが、豊富なキャリア、10枚以上ものオリジナル・アルバムを抱えていながら、なんだかさっぱりな人気のチア・アクシデント(Cheer-Accident)なる名前のバンドが今回の主役だ。日本では殆ど無名の扱い。最新アルバムは2009年の「Fear Draws Misfortune」なんだが、なにせ知名度がないもんだから最新作が某輸入CDショップの店頭で、1枚500円(税抜き)で投げ売りされる始末。それでもいつまでも店頭に残っている。そんな私も500円で買った口で、出て直ぐ買ったのに、今の今まで開封すらしていなかった。買った人間でこうなのだから、さもありなん。今でも根強い支持を獲得し続けている、あのジム・オルークが絶賛しているという曰く付きのバンドであるにも関わらず、である。まあ、オーソドックスなプログレでもなければ、ブルース・ベースの解り易い音楽でもなんだから、仕方がないのかもしれない。
ジャンル的にはアヴァン・ロック、エクスペリメンタル・ロック、オルタナティブ・ロック、マス・ロック、ポスト・ロック、そしてRIO(Rock in Opposition)系。アヴァン・ロック、即ち avant-garde progressive rock。最近この手のジャンルのバンドを紹介してこなかったが、実は私はこの手のバンドが大好き。レコメン系などとも言うが、ヘンリー・カウ以降の、アヴァンギャルド/エクスペリメンタル的な手法を用いた、まあ所謂奇天烈変態変拍子ロックの事。ヘンリー・カウ、アート・ベアーズ、 ニューズ・フロム・バブルは勿論、Muffins、Blast、Cartoon、X-Legged Sally、Hamster Theatre、Motor Totemist Guild、Doctor Nerve、Kampec Dolores、U Totem、5uu's、Thinking Plague などが同類。これらのバンドは過去、これまで取り上げてきたが、今回紹介するチア・アクシデントの経歴も凄い。ビッグ・セールスを記録する様な類の音楽でないにも関わらず、なにせ芸歴30年。だが、やっぱりメインストリームでは殆ど無名な存在。
1980年代の中頃の時点で、リーダーの Thymme Jones はまだノーザン・イリノイ大学の学生だったというから、最初のアルバム発表時点では、まだプロのロック・バンドという程ではなかったのだろう。恐らくはヘンリー・カウやアート・ベアーズ、ディス・ヒート、或いはビル・ラズウェルやフレッド・フリスが関わっていた1970年代後半から1980年代前半にかけての先鋭なジャンク・サウンドに影響を受けて音楽活動を展開する決断をしたのだろう。最初のアルバムは1988年。「Sever Roots, Tree Dies」という作品がそれで、自身のレーベル、Complacency から発表された。録音は1988年4月から7月にかけて行われたそうだが、この時のセッションは「Vasectomy」というカセット作品でも聴く事が可能だという。どうせもう入手出来ないだろうけど。1990年にはギタリストの Phil Bonnet が加入。バンドは更なる新作として「Dumb Ask」を完成させた。彼等の音楽に興味を持った Neat Records という英レーベルから提供されている。
翌1991年には「Babies Shouldn't Smoke」という作品を発表。この後、ベーシストが Chris Block から Dan Forden へ交代、バンドは1990年代末までの間に「The Why Album」「Not a Food」「Enduring the American Dream」「Trading Balloons」といったアルバムを発表していく。バンドは21世紀になっても音楽活動が継続され、メンバー交代劇を迎えながらもチア・アクシデントは「Salad Days」「Variations on a Goddamn Old Man」「Gumballhead the Cat」といった新作を発表していく事になる。レコメン直系と言うべきサウンドを得意として音楽活動を開始しながらも、激しいメンバー・チェンジの度に音楽性を変化させていったとかで、例えばニック・ディドコフスキ率いる Doctor Nerve の様に激しいハードコア・スタイルの音楽を提供していった時代もあったそうだが、それも時代の変化に沿ったものだったと言えよう。RIO/レコメン系サウンドも時代が進むに連れてオルタナティブ・ロックやメタルの要素を加えて変化を遂げていったという訳だ。





■ Thymme Jones - Drums, Keyboards, Trumpet, Vocals
■ Jeff Libersher - Bass, Guitar, Trumpet, Vocals
■ Alex Perkolup - Bass, Guitars
※ Tenor Sax - Doug Abram
※ Alt Sax - Lise Gilly
※ Baritone Sax - Dave Smith
※ Clarinet - Andrew Ciccone
※ Trumpet - Andrea Faught
※ Trombone - Mike Hagedorn
※ Violin - Carla Kihlstedt, Julie Pomerleau
※ Cello - Frederick Lonberg-Holm
※ Tuba - Rob Pleshar
※ Flute - Beth Yates
※ Vocals - Laura Baton, Marketa Fajrajzlova, Carla Kihlstedt, Teria Gartelos Stamatis, Aleksandra Tomarzewska
さて、本作の紹介に移る事とする。「Fear Draws Misfortune」は2009年に発表された、多分現状で彼等の最新作。レーベルは米レコメン系の本拠地、Cuneiform Records。この手の音楽の好きな人ならもうお馴染みの有名レーベルでもある。収録は全部で9曲。録音は2008年2月から8月。このアルバムを発表する前に、Todd Rittman、Sheila Bertoletti らは脱退してしまっていた為、本作発表時点での正式メンバーは3人。その為、例によって多くのゲスト奏者が録音に参加している。Carla Kihlstedt は Charming Hostess、SGM(Sleepytime Gorilla Museum)、Tin Hat Trio などでの活躍で知られる才女。Julie Pomerleau は Boxhead Ensemble や Flying Luttenbachers、Doug Abram は Lovely Little Girls など。個性溢れる演奏家で構成されたのが、「Fear Draws Misfortune」。上で触れた様に、メジャーな知名度という点では全く期待出来ないバンドであるが故、新作が在庫処理されてしまう様な悲しい扱いを受けてしまうのだが、内容はそんな酷な扱いと反比例するかの如く、優れた完成度を誇っている。個別の曲にも触れてみる。
「Sun Dies」はアルバムのタイトル曲。RIO/レコメン系直系の捻れたリズム・パータンをベースにしたマス・ロック。ヴォーカルに Carla Kihlstedt & Teria Gartelos Stamatis。さしずめ、凶暴化したジェントル・ジャイアントといった所だろうか。続く「Mescalito」はメンバー3人のみによる演奏だが、最小人数である事が信じられない程の緻密さを誇るハードコアな展開のナンバーだ。間髪入れずに登場する「And Then You Realize You Haven't Left Yet」ではクラリネットやアルト・サックスが導入される。フランク・ザッパやティス・ヒート当たりからの影響も垣間見て取れる内容。続く「Blue Cheadle」はチャーミング・ホステスの Carla Kihlstedt が登場。こういうタイプのマス・ロックだと、Carla Kihlstedt が参加している SGM 当たりのサウンドと差別化するのが難しい。凝ったアレンジは流石 RIO/レコメン系。1990年代以降のキング・クリムゾンがお好きな人にもお薦めだ。
「Disenchantment」でのヴォーカルは Aleksandra Tomaszewska が担当。エクスペリメンタルなアレンジがセンスを感じさせるポスト・ロック。後半部の盛り上がりでは個性的なジャズ・ロック風味のアレンジが施される。「The Carnal, Garish City」はキング・クリムゾン、ディス・ヒート、ハムスター・シアター、フランク・ザッパ、5uu's、シンキング・プレイグ、アート・ベアーズ、ニューズ・フロム・バブルといった個性的アーティストの要素が一緒くたに詰まった様な複雑怪奇な内容。いずれにせよ、ブルースやロックンロールといったサウンドをベースにした定番スタイルのロックとは対極に位置する音楽。ダグマー・クラウゼよりスザンヌ・ルイス、という人は是非どうぞ。「According To The Spiral」は Thymme Jones とフルート奏者の Beth Yates の2人だけによる忙しないプログレ。「Humanizing The Distance」はメンバー3人にバスーン、コルネット、サックス、トロンボーン、チューバなどが加わったマス・ロック。ノリの良いレコメン系といった所か。
「Your Weak Heart」は9分を超える、アルバム最大の最長曲。導入部は変拍子バリバリ、ハードコア、ドローンといった要素皆無のシンフォニック・ロック調。後に展開はミニマル・アンビエント寄りのポスト・ロックへ。メンバーのアカデミックなセンスが強く感じられるドラマティックな構成には脱帽だ。プログレッシヴ・ロックというジャンルの音楽を現代的な解釈を用いて再構築したよう。彼等の非凡さがひしひしと感じられるナンバーでアルバムは幕を閉じる。私はこれを525円(税込み)で買ったのだが、内容は上でも書いた様に、アヴァン・ロックの中でもかなりの上位に位置する出来だと思う。この手のジャンルのバンドは活動が長くなっていくと、他の同ジャンルのバンドとサウンド面で区分けし難くなってしまうのだが、高次元の演奏技量(この手のバンドは皆演奏技量が半端じゃない)がマンネリに陥りやすい傾向を防いでくれていると思う。結成30周年を迎えるに当たり、彼等は新たな傑作を世に生み出した。
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