(GBR) Public Image Ltd. / This Is PiL (2012)
1.This Is PiL
2.One Drop
3.Deeper Water
4.Terra-Gate
5.Human
6.I Must Be Dreaming
7.It Said That
8.The Room That I Am In
9.Lollipop Opera
10.Fool
11.Reggie Song
12.Out Of The Woods
中身を聴く前から迫力充分でしたが、中身も凄かった。ヴォーカル、ギター、ベース、ドラムスのシンプルな構成ながら、出てくる音楽は当時の私にショッキングな印象を与えるに充分な、重厚かつダウナーなロック・サウンド。既存の音楽によくある様な、調和のあるスタイルの音楽を真っ向から否定するカオス・サウンド。彼等以外の音楽は皆、陳腐で古臭い音楽に聴こえたものです。結成当初のメンバーはジョニー・ロットン改めジョン・ライドン、ジム・ウォーカー、ジャー・ウォブル、キース・レヴィン。マルコムの操り人形だったセックス・ピストルズを脱退した後に結成したバンドだった為、私も含め当時のファンは新バンドがどんな音楽を奏でるのか、興味一杯だったのですが、登場した音楽は期待をいい意味で裏切ったものでした。
後にドラマーはマーティン・アトキンスに交代、その後、キース・レヴィンやジャー・ウォブルが脱退すると、バンドは音楽性を一新、踊れないダンス・ミュージックを屋台骨とする唯一無二の存在から、よくあるスタイルの音楽バンドへと展開。「Metal Box」「Paris au Printemps」「The Flowers of Romance」、まあ「This Is What You Want... This Is What You Get」位までは良かったんですが、その後は月並みなバンドへと退化していった印象があります。この時代のサウンドなら彼等よりもフレッド・フリスやクリス・カトラー界隈のレコメン系のアーティストの方がずっと斬新で進歩的だったんですが、個人的には私は解散までずっと彼等の音楽につきあってきました。
1992年、「That What Is Not」という、長年のファンでさえ評価に困るアルバムを最後にプロジェクトは崩壊。その後、ジョン・ライドンはジョニー・ロットンという道化師の役を演じてセックス・ピストルズを何度か再結成してみせましたが、私の心はずっと晴れないままでした。再結成するのはセックス・ピストルズじゃないだろう、とね。だが近年やってくれました。パブリック・イメージ・リミテッドの再編です。ナツメロ・バンド、セックス・ピストルズではなく、パブリック・イメージ・リミテッドの本格的な再稼動を心から(ずっと)願っていた私は2009年のライヴ活動以降、新作が発表されるのをずっと待っていました。
メンバーはジョン・ライドン(ヴォーカル)他、元ポップ・グループ~リップ・リグ+パニックのブルース・スミス(ドラム)、ダムドやスピゼナジーでの演奏で知られるルー・エドモンズ(ギター)、プロデューサーとしても知られるスコット・ファース(ベース)。往年のファンを喜ばせるキース・レヴィンやジャー・ウォブル、マーティン・アトキンスの抜擢はありませんでしたが、本作以前に動画サイトなどで見られた、再結成後のステージを見る限り、往年のプレイの再現やクリエイティヴな発想は望めそうもない元メンバーの抜擢よりは今回の人選で良かったと思います。まあなにより、 パブリック・イメージ・リミテッドというバンドはジョン・ライドンの発想を体言する為のバンドだった訳ですから。
新生パブリック・イメージ・リミテッドはスティーヴ・ウィンウッドが所有する英コッツウォルズのスタジオにて2011年に録音を行って、全12曲入りのアルバムを完成。アルバムはバンド自身の出資によって設立したという PiL Official からのリリース。輸入盤は既に5月下旬に登場、私が今回紹介するCDもその輸入盤。日本盤は『This is PiL〜伝説をぶっとばせ』というタイトルで、SHM-CD仕様。7月4日に発売されるそうです。初回限定盤には海外限定盤にも付属されていた、2012年4月2日のロンドンのへヴン・ナイトクラブでの公演の映像(16曲)を収録したライヴDVDが付属されるそうなので、今から買うならそちらの方がいいかもしれません。
収録は全部で12曲。クレジットは全て4人の共作という形で発表されています。一言で言えばアメリカのTVショーでのセックス・ピストルズとしてのとほほな演奏とは雲泥の差とも言える、入魂の現役復帰作。ジョン・ライドン自身にとっても、1997年のソロ「Psycho's Path」以来の新曲をひっさげての登場となった訳で、新作を聴く迄は多少は不安もあったのですが、そんな一抹の不安を吹き飛ばすかの様な内容。ジョン・ライドンも現役ロック・ヴォーカリストとしてのハリもある。本気の現役復帰だったのでしょう。ドイツのバンド、カンのサウンドを摸倣したと言われる初期のサウンドを彷彿とさせる場面もありますが、キャリアたっぷりのバックを背に受けた2012年現在進行形のジョン・ロットンと言える様なサウンドに仕上がっています。
昔のファンは勿論、若い洋楽ロック・ファンにも是非聴いてほしい1枚。今風のグルーヴに付いていけない古い洋楽ファンもいるかもしれませんが、パブリック・イメージ・リミテッドというバンド自体のテーマが、その時その時点でのグルーヴの追求だったのですから、これはこれでよしとしておきましょう。曲も粒が揃っています。
PiL Official | Public Image Limited: Official Website
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