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#1431 Ithaca / A Game for All Who Know (1973?)

 2013-01-06
1. Journey (Destruction / Rebirth - Patterns of Life) YouTube
2. Questions (Did You Know? - Will We Be Alive?)
3. Times (Seven Seasons - The Path--Given Time)
4. Feelings (Look Around - I Want to Feel You)
5. Dreams (Story of Our Time - Beneath This Sky)
6. Journey II (A Game for All Who Know)

7. All My Life [bonus track]
8. The Poem / Peace of Mind [bonus track]

Ithaca / Game for All Who Know

今回紹介するバンドはイカサマという名前、いや失礼、イサカ(Ithaca)という、余り聴き慣れない名前のバンドだ。それもその筈、彼等は自主制作のアルバム1枚で消えてしまったバンドなのだから。だか、このアルバム、インターネットで検索すると結構ひっかかってくる。昔から超激レア・アイテムとしても有名で、その筋の好き者たちのアナログ・レコード市場では1枚なんとウン十万で取り引きされていた事もあったらしい。ちなみにイサカというとギリシャの西方のギリシアの島の名前とか、或いは米ニューヨーク州中部にある都市でコーネル大学やニューヨーク州立大学コートランド校などが存在する学術都市の方がずっとずっと有名だろう。こういうアルバムが21世紀にもなって語り継がれるのだが、音楽ってやっぱり面白い。なにせ当時、レコードはたったの55枚しかプレスされなかったというから(100枚とも、或いは70枚とも)、とても貴重だった訳である。といいますか、そんな程度のプレス枚数で今の世に残っているのが不思議ですが。

彼等の歴史は以外と古く、結成の歴史は1960年代の半ばにまで遡る。舞台はイングランド南東部に位置するサセックス。ギタリストの Peter Howell が John Ferdinando(ベース)と Robert Ferdinando(リズム・ギター)の兄弟と結成したバンドが最初。この体制でバンド名を幾つか変更しながら、インスト・バンド、シャドウズ・スタイルの音楽を奏でていたのだという。活動期間中にはギタリストの Martin Garrett やドラマーも参加。混迷を極めた最初のプロジェクトは結局1968年の終盤に消滅。だが、創作活動の意欲を失わなかったギタリストの Peter Howell とベーシストの John Ferdinando は Peter Howell & John Ferdinando の名前で音楽活動を継続、1960年代の終盤に「Alice Through the Looking Glass」「Tomorrow Come Someday」という2枚のアルバムを発表している。調べるまでもない、多分当時自主制作でしょう。尚、両アルバムとも2010年にサイケ復刻系の米レーベル、Lion Productions から発売されている。
『なんか足らないなあ。ブリティッシュ・フォークやアシッド・サイケでやるなら、やっぱりペンタングルやフェアポート・コンヴェンション、スティーライ・スパンの様に花となる女性ヴォーカリストが必要だ。』と思ったかどうかは知らないが、野郎2人は花となる女性ヴォーカリストを招き入れる。それが Lee Menelaus という名前の歌手だった。3人はイースト・サセックスで改めてアジャンクール(Agincourt、フランスとイングランドとの百年戦争の舞台の一つとなった場所)と名乗り、アルバムを発表する。1970年の「Fly Away」がそれだ。これも自主制作だったのだろう。尚、レコードは2002年に Acme Records から、CDも1994年(Background)、2006年(Lion Productions)と2度再発されている。ちなみに、Peter Howell & John Ferdinando は女性歌手抜きで後1枚、フレンズ(Friends)名義で1972年に「Fragile」というアルバムを発表している。CDは2006年、韓国の Media Arte から発売されている。

アジャンクールを継続させればいいのに、何故か3人はまたしてもバンド名を変え(本当に彼等はバンド名を変えるのが好きだ)、今度はイサカと名乗り、1枚のアルバムを発表する。それが「A Game for All Who Know」というアルバムだ。兎に角凄い。なにが凄いかっていえば、このジャケットだ。大体自主制作と言えばチープなジャケが多いのであるが、ここまでチープなのは見た事がない。CD冊子には、このアルバムは本来デモやプロモーション・オンリーだった、とある。誰に対してプロモーションするつもりだったのだろうか。全く謎である。録音は1972年3月に行なわれたとあるが、アルバムの発表は1969年とも1970年とも、1972年とも1973年とも、いろいろ説がある。それだけ、よく知られていないアルバムという事になる。この後、女性歌手を加えたアジャンクール~イサカ・プロジェクトは結局2枚で終了。John Ferdinando や Lee Menelaus の2人のこの後の足取りは判らないが、Peter Howell は音楽活動を継続した。

いや、むしろ John Ferdinando と自主制作盤作りに没頭していた時代よりも、John Ferdinando と袂を別った方のキャリアの方が立派だ。なんで無名の彼等がこんなにも自主制作盤が発表できたかというと、Peter Howell は1970年の時点でイギリスの公共放送局英国放送協会、すなわちBBCのスタジオ・マネージャーに就任していたのだ。恐らく、幾つかの自主制作盤は個人的な自己趣味実現の為に発表していたのであろう。1974年には(想像するに)これまでの活動に終止符を打つつもりで1974年にBBCレディオフォニック・ワークショップ(Radiophonic Workshop)に参加。レディオフォニック・ワークショップとは、1958年にBBCの中にダフネ・オラムとデズモンド・ブリスコーによって創設された電子音楽の研究所。フォークから電子音楽とは随分と異なる畑に転身したものだ。彼がレディオフォニック・ワークショップのメンバーとして関わった仕事の中で最も有名なのは『ドクター・フー』だろう。

Alice Through the Looking GlassTomorrow Come Someday [12 inch Analog]Fly AwayFragileDoctor Who at the BBC Radiophonic Workshop vol.3: Leisure Hive

『ドクター・フー』は1963年からBBCで放映されているSFテレビ・ドラマ・シリーズ。世界最長のSFテレビ・ドラマとしても有名だ。旧シリーズは1963年から1989年まで放映されたが、Peter Howell はレディオフォニック・ワークショップのメンバーとして番組の中で使用された効果音などを担当したのだろう。関わったエピソードに「Revenge of the Cybermen」「Planet of Evil」「The Paradise of Death」「The Ghosts of N-Space」などがある。この他、彼名義の作品として Peter Howell & The Radiophonic Workshop「Through A Glass Darkly」(1978年)、Peter Howell「Legend」(1984年)やコンピ盤「Space Invaded: BBC Space Themes」「The Doctor Who 25th Anniversary Album: Original Music From the BBC TV Series」「Evolution: The Music From Dr Who - Original Music From the BBC TV Series」、英TVシリーズ「The Machine That Changed the World」への楽曲提供がある。これらは彼がシンセサイザーの世界に突入してからのものなどで、初期の自主制作時代のフォーク路線を期待してはいけない。

さて、ドクター・フーの話はさておき、肝心のアルバム「A Game For All Who Know」の紹介に移る。作品は1972年の春に(多分)録音されたもので、収録は全部で6曲。自主制作盤だ。オリジナルがウルトラ・メガ級のレア盤である事は上記で触れた通り。これまで何度か再発されており、レコードは1992年(Background)、2002年(Acme Records)、CDは1992年(Background)、2004年のリマスター盤(Acme Records)、2008年の韓国製紙ジャケ(Media Arte)。2004年と2008年の物にはボーナス・トラックが収録されている。個別の曲に触れてみる。「Journey (Destruction - Rebirth - Patterns Of Life) 」はアルバムの冒頭曲。曲はアシッド・フォーク、プログレッシッヴ・ロック、サイケデリック・ロックが入り混じったまどろみロック。ブリティッシュ・フォークというよりは初期のピンク・フロイドとジェネシスを足して2で割った様な雰囲気がある。と、ここで調べて重要な事を発見した。

作詞及び作曲は全て John Ferdinando とある。そう、つまり、アリス・スルー・ザ・ルッキング・グラス、アジャンクール、イサカのフォーク路線は全て John Ferdinando の手によるものだったのだ。学生時代から友人 Peter Howell は John Ferdinando のサウンド・コンセプトを実現する為に強力していたのであろう。ならば、1974年以降の Peter Howell の自主制作時代のサウンドとは真逆のレディオフォニック・ワークショップでの電子路線も説明がつく。「Questions (Did You Know - Will We Be Alive)」は Andrew Lowcock のフルートと愁いのある女性ヴォーカルがフューチャーされた牧歌的な田園ロック。ブリティッシュ・フォークというよりは、もう立派プログレ。ヴォーカルはシド・ヴァレット風。トラッド/フォークの好きな John Ferdinando と、恐らくは初期のピンク・フロイド当りが好きだった Peter Howell、趣味の多少異なる2人の音楽性が合体した、風変わりなアシッド・ロックが展開されるのが特徴だ。

「Times (Seven Seasons - The Path - Given Time) 」も、モロ、ピンク・フロイドもどき。当時のアナログで片面3曲しか収録されていないのだから、彼等の目指したサウンドはトラディショナルなサウンドでなかった事が判ろう。蜃気楼の様な、どんよりとしたアレンジはまさに1960年代末のあの時代の匂いを引き継いだもの。「Feelings (Look Around - I Want To Feel You)」は旧B面の冒頭曲に位置する曲。ピンク・フロイド好きな彼等の趣向はここでもまる判り。「Dreams (Story Of Our Time - Beneath This Sky)」は女性歌手 Lee Menelaus をフューチャーしたもの。音域の狭い彼女の為に、クセのないまったりとしたふわふわとした旋律が展開させる。アジャンクール、イサカ以外で彼女の名前が見られない事から、本業歌手の人ではなかったのだろう。「Journey II (A Game For All Who Know)」はオリジナルの最終曲。一応、冒頭曲に対するエピローグとなっている。ピンク・フロイドみたいな導入部からシンセで、そして有名曲からパクったようなクラシック・ギターの旋律、女性ヴォーカル、唐突なリズム導入、となかなか果敢なアレンジを見せてくれるが、こういうサイケな展開は1970年位だったら、時代とシンクロしたんですが。

この後はボーナス・トラック2曲。アナログ・レコード再発の際に収録されたものだという。「All My Life」は本編のピンク・フロイド・フリークみたいな路線は陰を潜めたまどろみフォーク・ソング。「The Poem / Peace of Mind」は詞の朗読から始まる、「All My Life」路線のまどろみフォーク。デモ音源レベルの音質で、恐らくは録音時期はイサカの作品よりも前なのではないでしょうか。なお、このCDと同時発売のアナログ・レコードも限定プレス枚数500枚。総体的に言って、コレクターやマニア位しか相手にしないアルバムだと思うが、アシッド・フォーク、プログレシッヴ・フォークとしてはそれなりの標準は維持していると思う。問題はジャケットだ。事前知識がなかれば、まず手に取って買う人はいないだろう。なお、下に Peter Howell 氏の今のブログにリンクを貼っておいたが、大昔、ヒッピー然として容貌でフォーク・ギターを弾いていた姿が連想出来ない、貫禄のある今のお姿が掲載されている。

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