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#1432 Jean Le Fennec ‎/ Phantastic (1969)

 2013-01-08
1. L’abandon
2. L’enterrement
3. La Fleur
4. Marie Cécile
5. Mes Enfants D’autre Part
6. Le Sorcier
7. Le Chat Et La Souris
8. La Boule Et Le Verre
9. Le Disloqué YouTube

Jean Le Fennec / Phantastic

奇妙奇天烈脱力ポップ。場所は違えど同時代のホワイトノイズ(White Noise)「An Electric Storm」を彷彿とする螺旋の緩んだ不思議な音楽。当ブログではこれまでアルバム1枚限りのアーティストのアルバムを多く紹介してきたが、今宵取り上げる作品もとびきりの良品だ。今回の主役はジャン・ル・フェネック(Jean Le Fennec)という正体不明の人物。出生に関するデータや本作以外での経歴をインターネット上で調べようにも、まったく情報が見つからなかった。まあ、フランス語で歌っているので、フランス出身の音楽家である事は間違いないでしょうが、それ以外の情報はまったく判らない。まあ、サンフランシスコを震源地とするサイケデリック・ミュージックに感化された人である事は間違いないでしょうが、アメリカやイギリスと異なり、若者へのロック・ミュージックの浸透が他の先進国より遅かったフランスらしく、ベースはあくまでもポピュラー・ミュージックにおかれている。

今更言うまでもなく、サイケデリック・ロックとは、1960年代後半に流行したロック・ミュージックの一ジャンルのこと。ヒッピー、カウンター・カルチャー、サイケデリック、フラワー・ムーヴメント、等々。サイケデリック・ロックとは平たく言ってしまえばドラッグ体験を助長するために生まれた様な音楽で、マリファナやLSD、或いはコカインやヘロインといった薬物と切っても切れない音楽だった。ドアーズ、グレイトフル・デッド、ジェファーソン・エアプレイン、アイアン・バタフライ、クイックシルヴァー・メッセンジャー・サーヴィス、ビッグ・ブラザー&ホールディング・カンパニーといったバンドが1960年代の中盤以降、ヒッピーのコミューンの中から台頭して、若者向けの音楽シーンにおける主役の座をイギリス勢から奪い取る。方やイギリスからもシド・バレットが在籍していたピンク・フロイドやソフト・マシーンと言った連中が登場してくる。ビートルズ、ローリング・ストーンズ、アニマルズといったバンドもサイケデリック・サウンドに感化され、時代は猫も杓子もサイケ、サイケ。

アメリカ、イギリス以外の国、例えばドイツなんかはヨーロッパ諸国の中では比較的早くサイケデリック・ロックの洗礼の受けているが、それでも契機となったのが1968年のコンサート。後のジャーマン・ロック・シーンの重要人物の一人となるロルフ・ウルリッチ・カイザー主宰によりエッセンで開催された「エッセン・インターナショナル・ソング・フェスティヴァル」がキーポイントとなる。このコンサートには御大フランク・ザッパを筆頭にサイケの発祥地アメリカから多くのアーティストが招かれて、ドイツの若い観衆を虜にしたのだという。勿論、1968年以前もサイケの洗礼は音楽シーンの至る所で見られただろうが、ドイツにおけるキーポイントはこのエッセンでの一大イベントである事に異論を挟む余地はないだろう。イタリアはどうか。アモーレ、アモーレの国だが、イタリアでもディク・ディク、エキペ、ニュー・トロルス、レ・オルメといったビート・ポップス/ラヴ・バンド時代のバンドが影響を受けて、音楽性を変化させ、時代の寵児となっていった。

フランスの場合、転機となったのはなんと言っても1968年5月10日に勃発した五月革命だろう。民衆の反体制運動であった五月革命は同国に民主化をもたらしただけでなく、映画や小説、音楽、ファッションなど文化的な面でも大きな変動をもたらした。もっとも、この動きは何もフランスだけでなく、五月革命以降、民主化運動はイタリアや西ドイツ(当時)、そして我が日本にも波及している。簡単に言ってしまえばアメリカやイギリスではヒッピー・カルチャーの中から登場したサイケデリック・ミュージックであるが、イタリアやフランスなどでは1960年代終盤の民主化運動の影響により、旧世代に反対する新世代を象徴する文化として、当時の米英で流行していた若者向け音楽が浸透していったという側面もあろう。フランスではゴングやマグマといったバンドが初期のフレンチ・ロックの代表格だが、どちらも五月革命を契機にシーンに台頭してきたバンドだ。あっといけない、ベトナム戦争の事もある。               

■ Jean Le Fennec - Vocals
■ Willy Albimoor - Composed
■ Roland Kluger - produced

さて、今回の主役である、ジャン・ル・フェネック(Jean Le Fennec)。上記でも触れた通り、正体不明の人物。肝心要の音楽からして、シャンソンやフレンチ・ポップの住人が、アメリカやイギリスから流れ込んできたサイケデリック・サウンドに感化され、『じゃあ俺も、ブームに乗っていっちょう作ってみよう』という軽いノリで作ってしまいました、という雰囲気が感じられる。本来、音楽とは畑違いの住人か、あるいはホワイトノイズのデヴィッド・ヴォーハウスの様に、スタジオの裏方的な人物が冗談半分で作ってしまったのではないか、と思わせるジョーク・アルバムの趣も感じられる。演奏者のクレッジットも不明な様なので、ジャン・ル・フェネックはアルバム制作の中心人物に雇われただけの人物で、中心は作曲家とプロデュサーという線もあろう。いずれにせよ、ユニークなアルバムには違いない。発表は1969年。1921年生まれのフランスのプロデュサー、エディー・バークレイが1954年に設立したシャンソン/フレンチ・ポップス系レーベル、Barclay から発売されている。

CDは韓国 Media Arte。多分世界初CD化だろう。よくぞ、こんな奇妙なアルバムを見つけてきたもんだ。なお、ちなみにジャン・ル・フェネックはこのアルバムから「L'abandon / Le Chat Et La Souris」をシングル・カット(それともプロものみ?)した他、オランダ(ベルギー?)のレーベル、Palette からシングル「Les Adolescentes / Face De Clown」「L'Idiot Du Village / Mes Enfants D'Autre Part」を発表している。このPalette盤には本人の写真がジャケットとして起用されているが、本人の用紙は髭面に眼鏡といった容姿である。さて、本作。内容は一言で表すのが難しいアルバムであるが、サイケデリック・セルジュ・ゲンスブールといった感じであろうか。シャンソン/フレンチ・ポップス系レーベルから発売されたアルバムなので、サウンドの母体となるのは、その筋の音楽なのだが、米英から仕入れたサイケデリック・サウンドを付け焼刃の如く、導入した安っぽいサウンドに仕上がっているが、その安直さが実に小気味良いのだ。

「L’abandon」はアルバムの冒頭曲。まるでホワイトノイズ「An Electric Storm」の様な安っぽいギミックから立ち上がるフレンチ・サイケ・ポップ。まさにフリーク・アウト。当時、フランスとカナダでしかリリースされなかったとの事ですが、英語圏でも(英語歌詞でも)発表されていたら、カルト作品として語り継がれるアルバムとしての評価を得ていたかもしれない。「L’enterrement」はクラシカルな印象のスロー・ナンバー。結構まじめに歌っているが、何処と無く変な印象が湧いてくるのは私だけか。「La Fleur」はイージー・リスニング風のオケをバックにジャン・ル・フェネックが歌い上げるナンバー。「Marie Cécile」では冒頭部のピンク・フロイド風のサウンド・エフェクトが印象的。切実とした、いたって真面目なバラード・ソング。「Mes Enfants D’autre Part」での導入部もまるで初期ピンク・フロイド。「Interstellar Overdrive」とシャンソンが合体した様な妙なアレンジが耳に焼き付いて離れない。

この後も、シャンソン/フレンチ・ポップスとサイケデリック/アシッド・ロックが合体した様な妙な浮遊感覚がずっと漂っていく。アルバムは「Le Sorcier」を経て、プロモーション・シングルのB面曲としても登場した「Le Chat Et La Souris」へと流れていく。そして続く「La Boule Et Le Verre」、そしてなんともキッチュなナンバーであるエンディング曲「Le Disloqué」へと流れていく。本編はこれでお終い。アルバムに収録された曲はどれも粒の揃った、ソングライティング面で(本来ならば)問題のないメロウでポップなナンバーが揃っているが、サイケデリック・ムーヴメントを表面だけ真似てみました、感のある安直なアレンジが施されている。このチープさがアルバムのカルト性をアップするのに貢献しているのだ。なお、韓国製CDは初回300枚限定の紙ジャケット仕様。今から探しても手に入らないかもしれません。更にアルバムのジャケットも素晴らしい。このセンス、私は大好きだ。

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