#1053 Made in Sweden / Made in England (1970)
2. You Can't Go Home
3. Mad River
4. Roundabout
5. Chicago, Mon Amour
6. Love Samba
7. Blind Willie
8. Little Cloud
日本とは昔から比較的友好な関係にある北欧の国の一つスウェーデン王国発の音楽は今も昔も日本では手厚く歓迎されるのが慣わし。古くは1970年代のアバ、そして1990年代以降は1995年の「Life」で一躍人気物となったカーディガンズを初めとするスウェディッシュ・ポップ勢が大いにもて囃された。ブームとしてのスウェディッシュ・ポップは衰退したかに思えるものの、同国出身のアーティストに共通して見られる、メロディを大事にする姿勢は日本の洋楽ファンを中心に今でも根強い人気を誇っている。また、以外な話かもしれないがスウェーデンは音楽輸出国として米英に続く世界第三位の音楽大国。勿論ロックの世界でもアルガナス・トラッドガルド、ボ・ハンソン、カイパ、ケブネカイゼ、メイド・イン・スウェーデン、サムラ・マンマス・マンナ、トレッティオアリガ・クリゲット、そして近年ではアネクドン、カープトゥリー、フラワーキングス、パートスといった同国出身のロック・バンドのアルバムが日本でも洋楽ファンを中心に愛聴されてきた。
ノルウェー出身のバンドの記事で散々書いてきたが、元来北欧はジャズの盛んな国。かつて米国のジャズの演奏家がスウェーデンを訪れて録音を行った経歴も数多く存在する。その為なのか、これまで1950年代、1960年代から米国を起源とするジャズ・ミュージックがスウェーデン国民に広く愛聴されてきたという。勿論、北欧とは地理的に近い国グレート・ブリテン発のブリティッシュ・ロックからの影響も見逃せない。かくして同国出身のバンド、特に1960年代末以降に登場するバンドにはジャズをベースにブリティッシュ・ロックの手法を用いたバンドが多く見られる事となる。ウェス・モンゴメリー(1923-1968)から影響を受けたというギタリストの Georg Wadenius を中心に1968年に結成されたメイド・イン・スウェーデン(Made In Sweden)というジャズ・ロック・バンドもその手のバンドの一つ。ブリティッシュ・ロックからの影響も見脱がせないが、彼等のジャズ・ロック・スタイルは本質的に英ジャズ・ロック勢のスタイルとは異質なものだった。
デビュー作は1968年の「Made In Sweden (With Love)」。ヴォーカル/ギター(Georg Wadenius)、ベース(Bo Haggstrom)、ドラムス(Tommy Borgudd)のキーボード抜きのトリオ編成でスタートしている。まだまだシーンとしてのスウェディッシュ・ロックが確立する前の時代。ソネット(当時)から発表されたデビュー作はこれまで未聴なのだが、ジャズをベースに当時のスウェーデンのバンドとしては結構実験的な手法を取り込んで作品を制作したという。2作目は1969年のスウェーデン/デンマーク録音作品「Snakes In A Hole」。当時のサイケデリックの影響下にあるかのような妙なジャケットのデザインを担当したのはArdy Struwer氏。その後彼等はライヴ盤「Live At The "Golden Circle"」、スタジオ録音盤「Made In England」、さらに「Mad River」(「Made In England」の別ヴァージョン?)という作品も発表するが、ここで一旦解散の憂き目に会う。バンドの首謀者でギタリストの Georg Wadenius はソーラー・プレクサスを経てアメリカのジャズ・ロック・バンド、ブラッド・スウェット&ティアーズに参加する。
1960年代後半にアル・クーパーを中心に結成された、シカゴと並び称されるブラス・ジャズ・ロックの名バンド、ブラッド・スウェット&ティアーズ。このバンドで彼は1972年の「New Blood」を筆頭に「No Sweat」「Mirror Image」「New City」「In Concert」といった作品に参加するが、約5年程の期間を最後に同バンドから脱退してしまう。この後米国から母国スウェーデンに戻った彼は新メンバーと共に新生メイド・イン・スウェーデンを再結成、久々の新作「Where Do We Begin」を1976年にラヴ・レコーズから発表した。この作品では元ウィグワムのベーシストのペッカ・ポーヨラ、タサヴァラン・プレジデンティのドラマーのベサ・アールトネンがメイド・イン・スウェーデンのメンバーとして録音に参加している。この後自身のソロ作品「Georg Wadenius」(ブラッド・スウェット&ティアーズ時代に書かれた曲を含む)を1978年に発表したようだ。この後メイド・イン・スウェーデン名義の作品が発表されたかについては判らない。
■ George Wadenius - Guitar, Organ, Piano, Vocals
■ Bo Haggstrom - Electric Bass, Mellotron, Piano
■ Tommy Borgudd - Drums, Percussion
■ Tony Reeves - Producer
メイド・イン・スウェーデンのメイド・イン・イングランド。なんかややこしいが「Made In England」がアルバム・タイトル。1970年2月に地元スウェーデンで行なわれたライブの模様を収めた「Live At The "Golden Circle"」に続く作品として1970年に発表された。大昔、私はメイド・イン・イングランドというバンドの「Made In Sweden」というアルバムだと勘違いしていた時期もあった。恥かしい過去である。メンバーは結成当初の3人トリオ。タイトル通り、本作はスウェーデン人によるイングランド制作のアルバム。プロデュースはトニー・リーヴス。ニール・アードレイやジョン・メイオールの元、そしてコロシアム、グリーンスレイド、カーヴド・エアと渡り歩いたブリティッシュ・ロックきっての名ベーシストである。メイド・イン・イングランドは本作制作以前にコロシアムのツアーのサポート・アクトを担当した事があるとかで、その縁が元でコロシアム時代のトニー・リーヴスが本作のプロデュースを買って出たようだ。
「Made In England」の録音はロンドンにあるパイのスタジオ。エンジニアはトリオ、マンゴ・ジェリー、サヴォイ・ブラウン、フィンバー&エディ・ファーレイらの作品を担当したこともあるパイ専属のテリー・エヴェネット(Terry Evenett)。アレンジにプロデューサーのトニー・リーヴスの他、重鎮ニール・アードレイ(「Chicago, Mon Amour」「Mad River」「Blind Willie」の3曲を担当)の名前も見える。CDは Mellotronen(Sonet/Universal Music)より。ジャケットはどうやらスウェーデン盤とそれ以外の2種類あるようだ。冊子には本作の別ヴァージョンである「Mad River」のジャケット写真も添付されている。さて本作「Made In England」は当時の彼等にとって待望の英語圏での録音(ロンドン)。当時のスウェーデン国内の音楽シーンでは非常に珍しかったらしい。スウェーデン語を公用語とする瑞典人達だが、ロンドン録音である事もあってか、歌詞は英語で歌われている。さて、順を追って各曲に触れてみたい。
冒頭のナンバー「Winter's A Bummer」は George Wadenius のオルガン演奏がモンドなリズムも感じさせるオルガン・ジャズ・ロック・サウンド。ベース&ドラムスのリズムとタッチがモロ、アメリカ仕込みのジャズ・ロックといった雰囲気だが、途中ブルースをベースとしたブリティッシュ・ロック然としたジャズ・ロックに変わる当りはコロシアムのトニー・リーヴスがプロデュースを担当しているという事実をヒシヒシと感じさせてくれる。「You Can't Go Home」ははつらつとしたテンポの良いジャズ・ロック曲。一転「Mad River」はニール・アードレイのストリングス・アレンジが利いている神妙なナンバー。途中ビートの効いたアレンジが展開されるが、この辺の展開はトニー・リーヴスの趣向だろうか。本作の聴き所の一つ。中国の伝統音楽の要素から始まる「Roundabout」はジャズとポップスの要素がバランスよく融合した軽妙なジャズ・ロック・ナンバー。生ギターの導入がそれとなくジャズ・ギタリストからの影響を感じさせる。
「Chicago, Mon Amour」はニール・アードレイのストリングス・アレンジとジム・ホール当りからの影響を感じさせる George Wadenius の生ギターとの絶妙な融合が微笑ましい名曲。是非とも1人でも多くの人に聴いて欲しいと感じさせる出来なので何処かで機会があったら聴いて欲しい。「Love Samba」はスキャット入りのラテン・フレーバーなジャズ・インストゥルメンタル。作曲者である George Wadenius は幼い頃にビル・エヴァンスやオスカー・ピーターソン、ジム・ホール、ルネ・グスタフソン当りのジャズ・ミュージックを聴いて育ったというが、そんな彼の音楽履歴の一旦が垣間見て取れるようなジャズ・ロック・ナンバーだ。「Blind Willie」もニール・アードレイのストリングス入り。ブラス入りのジャズ・ロックは後のブラッド・スウェット&ティアーズ参入を予感させる出来栄えである。そしてアルバムはテンポのよいジャジーなビート・ナンバー「Little Cloud」で幕を閉じるのである。
アメリカのジャズに憧れてプロの音楽家を目指したギタリストの George Wadenius を中心としたメイド・イン・スウェーデン。彼等にとって通算4作目の作品(スタジオ作品としては3作目)に相当する1970年発表作「Made In England」はトニー・リーヴスやニール・アードレイの協力を得て制作された作品であるとは言え、オリジナル曲を中心にトリオ編成ながらもここまでのレベルの作品を当時のスウェーデン・ロックの実情で完成させてしまった事は大いに注目に値するだろう。北欧ロックは本当に侮れない。当時の音楽シーンを囲い込むブリティッシュ・ロックからの影響、更にコロシアムばりの重量感溢れるアレンジも無視出来ないが、これは英国録音の効果、若しくはコロシアムのトニー・リーヴスによる効果だろう。ソフト・マシーンやニュークリアス、ブランドX、またカンタベリー系のジャズ・ロック・バンドのような几帳面で繊細なジャズ・フュージョン・ロックという出で立ちは彼等には似合わない。
聞けば当時の北欧の音楽シーンでは英国のジャズ・ロックよりも米国のブラッド・スウェット&ティアーズやシカゴといったネアカなブラス・ロック・スタイルのジャズ・ロック・バンドの方が人気があったというが、そんな当時の北欧の実情を実感させてくれるような内容だ。ストリングス・アレンジを担当したニール・アードレイの本作での抜擢は大正解。メイド・イン・スウェーデンの3人の演奏技量も相対的に過不足ないが、テクニカル性を重視するバンドではないし、衝撃性やシリアス性を重視するジャズ・ロックではないので、ハットフィールド&ザ・ノースやナショナル・ヘルスのようなカンタベリー系ジャズ・ロック・ファンにはあまりお奨め出来ない。「Made In England」を超1級の内容とは言わないが、B級ジャズ・ロック・バンドの作品として歴史の中に埋もれさせて片付けてしまうには惜しい内容なので是非どこかで耳にして欲しい。ユニヴァーサルさん、いい仕事されましたね。
Sonet
売り上げランキング: 92,926
- 関連記事
-
- #1055 Helpful Soul / The Helpful Soul First Album (1969) (2006/04/15)
- #1054 Even Dozen Jug Band / The Even Dozen Jug Band (1964) (2006/04/11)
- #1053 Made in Sweden / Made in England (1970) (2006/04/08)
- #1052 Evie Sands / Any Way That You Want Me (1969) (2006/04/04)
- #1051 Long John Baldry / It Ain't Easy (1971) (2006/03/30)